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041、欠けては塞ぎ

 その石は地下にあり、人目に触れたことは無かった。

 人の目に触れるよりも先に、それは、温かい水に触れた。


 温かい水はとても薄いものの、その石と同じ性質を有していた。

 けれど、温かく、熱く、願いを内包していた。


――ゆえに。


 それは融け、それは染み入り、それは広がり、それは溢れる。


――地表から七メートル下にあった石は温かい水の流れをまるで遡上するかのように上る。その時には既にその意思は石の硬さを持っておらず、水に溶け、故に静かに、早く昇ってくる。


 混ざるという言葉も生易しく、それは一体である。


――温かい水の水源は人工的な編み目の向こうにあって、

――けれどそれは進むことを妨げるものではない。

――拍動する水源まで到達する。

――取り込まれ、飲み込まれ、呑み込んだ。


 ……結果。



 目が覚める、

 そんな表現は朝に目覚めた時しか使ったことがなかった。


 だから、これが初めてだ。目を醒ます、

 僕は、目を醒ました。



 体に痛みはある。まだ、傷があるからだ。

 だが、それ以上のものがある。


 熱、疼き、痒み――奔り。足を止めるなという焦燥。

 燻って痛いくらい。


 その焦燥が拍動に繋がり、拍動は全身の状態をスキャンする。

 揺れは異常地点を痛みとして返し、異常の修復中の部分を痒みとして返す。


 痛痒はこの場合、正常以外に対してのマーカーだが、それはもはや、全身に回っている。

 正常部分の方が少ないのだと、全身が悲鳴を挙げている。


 が、


(ぐ、ぅううううう!)


 拍動が伝えるのは揺れだけではない、血液の巡りに乗って熱が回る。

 血液、そう、血液だ/ではない。赤い、液体。

 生命を伝える体液という意味である/でしかない。


 めぐる、巡る、廻る、狂うほどに。自分自身の生命の欠片、乗り物でしかないはずの血液が、反抗する。反発する。自分のモノではないと、そして、それは反応として正解だ。


 その血液は異物、自分の体を構成するもの以外の混じった、混じり物の血。だが、その拒否反応は、五秒十秒と時間を追うごとに収まっていく。


 拒否反応の結果、追い出したのではない、拒否反応が馴化したのではない。変わったのだ、変わって、変わり、変えられた、変わった結果、もはやそれは異物ではなくなった。


 そういう意味では、乗っ取られたというのに近いが――受け入れたのが小鳥谷の側であるという事実を踏まえると、融合した、というのが最も適しているかもしれない……。

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