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037、石使いの戦い

――ルビー。


 宝石としては、極めてメジャーな石の一つだろう。

 宝石の名前を挙げていくなら五本の指に入るというか、ダイアモンドの次くらいには知名度のある石だと思う。


 その分、アイゼナッハの宝石庭にもルビーは何人かいる。

――『ルーシー』

 私と一番相性のいいルビーの名前だ。


 赤いジャージを上下に着ていて、しかし、その体躯は実寸であれば圧迫感を与えるほどに豪奢なのであろう。ふくよかさこそが女性美の象徴とされていた時代から来たように見えて、しかし、現代の美感に照らしても均整を失っていないと評すべきぎりぎりのバランス。


 怠惰というよりも淫蕩な空気を持った彼女が、しかし、ジャージというやぼったさの中に押し込まれていることで逆説的にフェチズムを掻き立てる。そのような体躯は、ルーシーの精神性からきているものというよりも、きっと、彼女の宝石としての素体に由来するのだろう。


 今、左手中指に着けている指輪は石の大きさで人差し指と薬指の動きを阻害するほど。その関係上、私が普段つけるのは難しい。もっぱら、魔術師として、宝石使いとして働くときにしか一緒にいないのだが。その大きさを恥じているようにもあるいは、悔いているようにも思える。


 来歴を聞けばさもありなん、彼女の装いがジャージのようなものであることも含め彼女の心の傷には理由があるということだが、そのあたりについては、私も微力ながらも手助けできればと思う……それは現状では置いておくとして、彼女の能力は戦闘にも応用できるものだ。


 特に、先制の一撃としては有効だ、と自分は考えているし、それに対して、

――以心伝心という言葉を表すかのように彼女は応えてくれる。


 光撃、収束する光をリービーに向けて放つ、距離はまだ、五歩ほどあっての先制攻撃である。

 結果は、



 結果が見えるようになった時には、その回答は先の位置よりも二歩前に出ていた。リービーの歩幅で二歩というなら、こちらの歩幅換算五歩のそのほとんどをつぶされたことになる。


 ルーシーの魔術は光の操作、系統は増幅・収束・放射、つまりはレーザーだ。能力の系統だけで言うなら、ルビーにレーザーなので読まれやすいとしか言いようがないが、しかし、文字通り光の速さでの攻撃というのは多くの状況で非常に有効な一手になりえる。


 もちろん、目の前の事例を出すまでもなく、対処の方法はあり、


(読まれた!)


 出力された後は光の速度でも、狙いをつけたり、修正したり、あるいは、発動させる瞬間までは意志と思考の速度でしかない。発射された弾丸を回避することはできなくとも、発射される前に射角から出ることはできるのと似たようなものだ。


 ともあれ、リービーはこちらの攻撃に対処ができるということを証明した。


 その顔を見ればわかる。今の初撃は攻撃ではない、ダメージを与えることを目的としたものではない、あくまでも視界を奪うための可視光の照射、それも回避させないように範囲を広くとったのと引き換えに、網膜を焼けない程度の威力に落ちたものだ。


 だから……だからか!


 リービーはこちらを見ている、片目で、だ。おそらくは、こちらの意図を読んだ瞬間に片目を閉じたのだろう。光が終わってから閉じていた眼を開けば何とか見えるはずだからだ。


 両目を閉じなかったのは、おそらく、こちらの攻撃――光にまぎれた襲撃――を警戒していたからだろう。その発想がなかったから打たなかった手だが、結果だけを見ればその手を取らなかったのは正解だったのだろう。


――そうしていれば手ひどい反撃を受けていたはず。


 今のやり取りを単体で見れば、向こうはこちらの過大評価で片目を一時的に使えなくしたというだけだがより広い視野で見れば、こちらは向こうの読みあいの土俵にすら立てていないということだ。

 意地汚くも、こちらが勝つためにはそんな敵損も利用しなければならない。と、そんなことを思っている間にリービーが接近している、


 気安く、リービーはまるで、文庫本を持つように、万年筆を持つように、自然な姿勢で右腕に刃を握っている。


 腰より低い位置にぶら下げているのは、単純にこちらの視線を切るためなのか、しかし、見れば、いや、見るまでもなく感覚としてそれが何かはわかる。


 それもアイゼナッハの所有している武器の一つだ。石、石の凶器、石器だが、歴史的なものではない、近代に作られた石の加工品。ナイフだ。タクティカルナイフというよりもサバイバルナイフといったフォルムであるそれは、ジャスパー、要するに翡翠のナイフ、だ。


 西洋よりもむしろ東洋で高い評価を得る翡翠はアイゼナッハの宝石庭では数多いとは言えない。最近は東南アジアに浸透しようとしているので、店の商品としては多少あるにしても魔石となっているようなものは少ない。


 だが、目の前の翡翠のナイフはその数少ない例外のほう。美術的な評価が低い石であるが細工は流々。効果はむしろ、細工のほうを起源にしている可能性すらある、それは、線を作り――、


(っ!)


――説明の前に実践が来る。


 リービーの軽い腕の振り上げ、払うような捲るような軽くしかし少しだけの力を入れた仕草が生んだのは、線。軌跡というやつだ。刃ゆえに残る軌跡は、そのままではなく――飛ぶ!


(アルバダ!)


 介入があった。斬線の飛翔路の最中に盾が生まれる、防盾はシャボン玉の表面のように、玉虫の光彩のように、不可思議な揺れ方を放つ光。


(きゅう……)


 アルバダの意識がブラックアウトする。こちらの制御を抜けての防盾展開は彼女に収められる容量を一気に削り、それにより圧力を低下させて――、要するにこちらが不甲斐ないせいで彼女は無理をして、一瞬、オチた。


 数秒あれば復帰するだろうが……!


――もう一本の刃。


 その刃は風のもの、日本の文化に則って言うなら鎌鼬というやつになるのだろうか。空気圧差により生じる面――断面の滑り現象。


「ルーシー!」


 声で彼女に呼び掛けて、同時に回避をする。風を感じる距離を鎌鼬が通り過ぎるがダメージはない。

 ルーシーは……、


(見えました!)


 意識で要請したのはルーシーの能力の使用。攻撃ではなく、フェイントではなく、ただ、観測。観察。光なら見えるはずの、屈折現象。水や空気のような、界面以外の移動方向が目に見えないものでも圧力の差、密度の差、温度の差があれば、その境界線は可視化される。


 可視化されるものなら、彼女のテリトリーだ。


(射程は三メートル、射程中では減衰なし――効果範囲を固定しているタイプだと思います。おそらくは、高威力でもその距離から外に出れば無効化されるかと!)


 もう一撃は目になれてきたので少し余裕をもって回避できた。速度はたぶん、腕の振り速度に比例しているのだろう。とらえられないほどの速度ではないけれど、目で見て避けるのは怖いという、それぐらいの速度。


 ルーシーの報告が正しければ、ルーシーとは違うタイプ。物理現象として起こす彼女は光線に射程距離がない。確認はしていないが、発射された瞬間からは普通の物理現象でしかないはずだ。


 それに対して、翡翠のナイフのこれは違う。本体を中心に『射程距離』として設定された範囲内にルールを追加するタイプだ。具体的に今の場合『軌跡は切れ味を落とさない』とかそんな感じ。あるいは、『切断は軌跡に生ず』とかそんな感じ。


 溜めや発生前のラグを見ていると、後者のようだ。


 使い方が広いが、単体の能力としては恐るべきものではない。始点を中心に無限遠まで軌跡を投影するとか、空間に切断面を留め置くようなものとは違い、一撃に一つの対処をすればいいだけなのだから。


 アルバダが復帰するまで距離を取るという判断で、後ろに跳んだ。

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