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028、お久しぶりです。

 では、本日は宝石使いとしての訓練の初歩の初歩をやってみましょう。



 今日の分の研究が終わってデータ的には問題ない。


 以前にシャルに提出した企画書と進行はそんなにズレていないしマリーをセットするデバイスも原理的な部分は完成した。最終的な目標までは実現しなければいけない技術障壁が幾つもあるが、現段階では魔術でカバーしつつ、徐々に機械技術で置換していけるはずだ。


 具体的には例えば入出力に関しては現段階では音声で話しかけて、数秒の処理の後文字情報で出力される。当然そこには抑揚や高低、話速などがないわけだが(話速は実現できると思っていたが、コンピュータの処理能力のほうがネックになっていて、情動を表現するような速度はそっちに呑まれている)そのあたりは今後音声出力に変えられないかを考察中だ。


 だから、最初にシャルに見せられたゲーム用の筐体くらいのことはできるようになっている。


(後はもっと反応の早いとかの点と重量や複雑さとのトレードオフかな)


 高機能なものほど基本的には重くてかさばって衝撃に弱い、現状試せる選択肢ではそんな感じだった。


 現状という意味では、契約による直接、魔術回路で繋がったやり取りの一パーセントも情報をやり取りできていないかもしれない。全然足りない、と思ったのだが、よく考えれば声なき者の声を聴けるというだけで破格だった。


 感覚の麻痺とはかくも恐ろしい、


「ぼうっとするのはもういいかしら」


 少し語気の強い、しかし、まだまだ笑顔のシャルが言う。

 頷いて返すとため息をつきながら手のひらを突き出した。

 そこにあったのは、石。


 月長石。

 初めて会った時の筐体に入っていたあの子だ。

 思うと、シャルからの魔力供給を受けて石霊が顕現した。


『アルバダです。お久しぶりですね、小鳥谷様』

「久しぶり、ですね」



『あの子と契約されたそうで、ご迷惑はかけていませんか?』

「マリーが? まさか」


 いうと、どこかほほえましそうにアルバダ――彼女は笑みを浮かべる。


『良き主に巡り合えたようで』


 その表情は母親のような姉のような、慈愛に満ちたものだったのでついつい聞いてしまう。


「マリーとは?」

『ん、どういえばいいのでしょうね。教導する姉貴分というぐらいの表現が適切でしょうか』

『姉妹というには若干、明晰時間が違うような気がしますが……』

『ほう、面白いことを言うようになりましたねマリー』


 慈愛は『じ』の字も残らず霧散して氷でできた刃のような空気感がホテルの一室に満ちている。


「……明晰時間って、意識を持ってからの時間、ってことでいいのかな?」


 空気を少しでも変えようとアルバダに対して質問を投げる。今のマリーは殺気にあてられたらしく声をかけても反応がないような気がする。

 二コリと笑ったアルバダはこちらの質問に答えてくれる。


『そうです。私は先代当主の姉君の下で意識を持ち、しばらくして後、先代のもとに渡りました』

「先代……」


 当主というやつはフィクションではよく聞くけれども、現実的には歴史の教科書ぐらいでしか意識しない言葉だなぁ、と思う。シャルの実家ならそれはそんな呼び方で敬意を表すのも当然といえるのかもしれないが。


 この前に家族の話を聞いた時も当主がどうとかはそんなに言っていなかった気がするけど……あ、でも母親を『アイゼナッハの長』とか言っていたからきっと当代とでもいうべき当主はシャルの母親なのだろう。


『はい、そして、先代からひ孫であるシャルロッテ様に贈られたのが十年ほど前ですね』

「ふうん……って、ひ孫?」


 先代というのだから祖母か祖父だと思っていたが、そこは少し違うらしい。というか、曾祖父だか曾祖母だかの下で目覚めたということは……。

 確かに、マリーが言う程度には『姉妹というには若干』なのかもしれない。


「!」


 うお、っと。思っただけにも関わらず。のどのあたりに寒気がした気がするのだけれど。


『失敬』

「いや、こちらこそ」


 何がこちらこそなのかわからないが。


「ちなみに、マリーは何年になるんだ?」

『え?』

「ほら、意識を持ってから」


『あ、あー。八年です』

「そうか……って、八年!?」

『八歳該当……と言いたいところですが意識を持った時点で〇歳児並みということはありませんので、それより少し上を想定されるとよろしいかと思いますよ?』


 アルバダが補足を入れてくれる。


――もともとのマリーと口調が似ている気がするが。


『先ほども申しましたように目覚めたばかりのころのマリーの教導も行いましたので多少は私に似た気質があるかと思います』

「あーっと、じゃあ、アルバダが一番のふるか……いや、一番幼い時のシャルを知ってるの?」

『ふむ。シャル様の手元に来た、というタイミングを基準に考えるなら私ではなく『アンナ』ですね』


 その名前は聞いたことがない。


『今日は……あぁ、シャツのリボンが見えますか?』


 アルバダの言葉に従って視線を送ると、ん?、と不思議そうな表情をしたシャルがいる。

 リボンタイは若干太めのピンクチェック。それを留めているのは銀の地金に白い石。


『オパールのアンナ、彼女がシャル様の石霊具現化の訓練に付き合っていたシャル様にとって最も付き合いの長い石ということになります』


 次が私でその次にマリーです、と補足を入れてくれた。


『ちなみに私が先代当主から贈られたと申しましたが、アンナはシャル様の祖父に当たるミハイル様から贈られ、マリーは……シャル様が見出した、ということになるのでしょうかね』


 ふふーん、と言わんばかりにマリーが胸を張る。


『マリー以外にももちろんシャル様の手持ちの石はありますが、シャル様が目覚めさせた石は、アンナか私の影響を受けていますよ……良くも悪くも、と言っておきましょうか』

「……なるほど?」


 流派、のようなものだろうか、あるいは派閥か。

 しかし、相互の関係性は悪くないように思える。


 勿論、アンナという子とは話せていないのでわからない部分はあるが、少なくともアルバダ、彼女からは悪感情は見受けられない。


『さて、ではそろそろお嬢様が焦れておられるので、訓練の開始と行きましょうか』


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