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026、お出かけしようよ

 夕方。ラボでの実験も終わり。

 僕はマリーを回収しバングルに収める。


 一応、他の人には見えない形で維持することが出来るようになった。

 正確には、維持するのはマリーがやっていて、そこに魔力を供給するだけの役割だ。


 能力成長をほぼ一点に絞っているとはいえ、契約から10日でそこまでというのはなかなかの伸び率ではあるらしい。マリーに言わせれば『さすが私のご主人様!』であるし、シャルに言わせれば『五十人に一人くらい?』だそうである。冷静さと贔屓目がなさそうという意味ではシャルの方の評価が客観に近いだろう。


 とはいえ、生産スピードが消費スピードに追いついた、というだけである。

 だが『それだけ』であるにしろ、成長できるということは嬉しく、達成感のあるものだ。


 それでも多分、シャルの十分の一くらいの生産能力にしかならないらしいというのはなかなかにすごい話だ。

 さて、といってラボの鍵を締めたシャルはこちらに視線を向けて、


「どこか食べに出ましょうか」


 お祝い、というわけでも無いだろうがそんなことを言った。



 冬の空気は乾燥していて、温度よりも風が寒いと感じる。


 日が暮れるのは早く風は強い、肌に触れるだけの風がバンバン体温を奪っていくような気がする。何か、もう一枚くらい羽織るべきだっただろうか、例えば、風を通しにくいような素材のコートなんかを……。


 と、少女の背を目で追いながら思う。少女は金髪を風に晒しながら、道路の縁石の上で両手を左右に広げてバランスを取りながら歩いている。十四歳の少女にしても子供っぽいとは思うけれど、その表情はきっと笑顔だろうから、悪いとは思えない。


 深い緑のクロップドパンツに、黒のシルクシャツ、カジュアル系だが、若干硬めと思える装いを崩しているのは、その上に着ているブラウンレザーのフライトジャケット。彼女のお気に入りらしく、よくそれを羽織っているところを見かける。


 レザーと言っても硬い牛革ではなく、鹿の革だそうだ。手袋が同じ素材の色違いでできているらしいが、そちらについては、宝石を扱うのにも適した更に柔らかく加工したものとのことだ。外にいても、カジュアルな見た目でも、少女でも、宝石商の娘なのだ、と、そんなコーディネートだ、とうそぶいていた。


 そんな彼女に道を示しつつ夕闇に紛れて街を行くのは、シャルのリクエストに応えるために、だ。


 ここしばらくは研究室でジャンクな食事を摂る姿を見ているが、彼女は今もってホテルぐらし、昼間のジャンクな食事はまだいいものの、朝晩はホテルの食事に飽きてきたとのことだ。


 外食に行こうと言いながらも、『労働者』たちが聞きつければ囲んで棒で叩かれそうなお大尽のセリフを受けて、適当なところにしとこう、と提案したのだ。


「口にあうかはわからんよ?」

「それも一興と思うのは、あなたの感性には合わないかしら?」


 悪くないと思う、と返しながら道を行く。休学しているとはいえ、今いる場所は学校に近い。気取ったレストランはそもそも少ないが、『そういう』ところに辟易してのご要望だろうから、選択肢から外す。

 学生街なので、どういったお店が多いのかといえば……。


「量、値段、酒、濃い味」

「……うーん」


 学生街らしいといえば、らしいだろう。ラーメン、中華、パスタ、オムライス専門店、焼き肉、たこ焼き(閉店)、……、と。


 んー、赤ちょうちんか。

 酒を出すようなお店のほうがむしろ良いかもしれない。それ以外は……なんというか、ぎとついている感じがある。


「ここでどう?」


 駅前大通りから道を一本外れ、街の外縁部側に行くと、ちょうどいい一帯がある。

 一人で飲むにもいいし、数人程度の打ち上げなどにも利用される値段帯の店々。


 殆どの店は日本酒を出し、それに合わせたつまみがでる。所々にイタリアンおでんやら、エスプレッソを出すような喫茶店……というよりもサロンじみたカフェーやら、完全に洋酒を嗜む店舗としてのバーがあったりする。


「なんというか、混沌な感じ……」

「うん。嫌いかい?」

「きらい、じゃないわ」


 いつの間にか僕の後ろにいたシャルはしかし、興味深そうな目で路地の奥を覗き込んでいる。新しい家に来た猫のようだ、と少し思った。


「和食っぽい和食ならあの小料理屋、揚げ物は天ぷら、赤い照明用具が釣ってある店は酒が主の店だけど、一番家庭料理に近いかな……味は濃いけど」

「季節によっておすすめの店が変わったりは?」


「何が好きかによるけど……冬ならどこでも美味しいかなと思う」

「じゃあ、今日のところは……」

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