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025、夕陽の中で早鐘を打つ

 何だったのだろうか、と僕は心の中で呟く。いつの間にか帰ってきていたシャルに背後から抱きしめられたときの腕の温もりとその思ったよりも強い力を思い出す。背中にあたった柔らかさと、彼女の匂いを反芻する。


 ホテルのお高そうなシャンプーの匂いにほころぶ蕾のような体臭にお菓子の匂いが混じっていた。砂糖とスパイスと素敵なものでできた香りを残して、シャルはすでに、僕の背を離れもとのソファーに戻っている。


 彼女の体温が離れたところはもとに戻っただけのはずなのに先程よりも寒さを感じる。


(寒い)


 寒さはきっと、喪失感という言葉につながるもので。

 僕は彼女が離れた瞬間に感じた『惜しい』という思いを喰んで過ごさなくてはいけない。どうして、そんな目に合わなければならないのか、と彼女の方に視線を送る。


――あ。


 心の中で絶句する。

 言葉を失う、という表現がいい意味でも使えるのだと生まれて初めて感じたように。

 夕日に頬を染められながら、どこか嬉しげに口元を綻ばせる少女は付け足す言葉もないほどに、魅力的に映ったのだった。


 人を……。


――理性で、感情で、肉体で好きになる。

――理性は打算や駆け引きも含め、感情はただ焼き尽くすようにして、


 肉体は今その時の逸りをもって。

 けれど……、


 理性は深く重さも持って、

 感情は熱く燃え上がるようにして、

 肉体は激しく全霊をもってして。


 究極、どれが優れているとか勝っているとかではない、その時、何が早かったかだけだ。



 手につかない。

 気もそぞろ。

 浮ついて。

――ふらふら。

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