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015、訓練。(いーじー)

 手のひら同士を突き合わせるようにして重ねていたのをほどく。

 体温が離れる前につかみなおして、今度は彼女の手を上に、こちらの手を下にして手を重ねる。


 彼女が胸に宛てていた手も同様にして、向かい合って手をつなぐ。なぜだかとても『こう』したくなって。そして、それが正解であったと分かる。シャルは表情を見たこともないほどに目まぐるしく変えながら、赤く染め。しかし、両手がふさがっているので赤さを隠すこともできない。


 ふにふに、と親指で彼女の手の甲をもむようにする。

 彼女の指の骨の一本一本の感触を指の腹に感じながら。


「魔術師には世界がこう見えてるのか……」

「貴方はまだまだ制御できてないと思うけど……ね」


 そうこちらに言い返す少女は後光がさしたように、光に包まれていて、

 その光は一様の方向性を持っている。


 基本的には全身から光が零れているが、ゆらゆらと浮き上がるようにして頭頂に抜けて、抜けた一部は炎が外炎として消えるように見えなくなり、一部は彼女のもとに再度降る。


 それが溜まるところは全身ではない。一部で特に集まっているが、それは、彼女のシャツの一番上のボタンであり、リボンのチャームであり、彼女の右腕のバングルである。

 つまり、魔石なのだろう。


「……胸を見てる?」

「人聞きわりぃ!」


 ははは、冗談冗談、とシャルは笑う。


「見えてるみたいだね。結構結構」


 その言い方、可視化したわけではなく『こちらが見えるようになった』とそういうことなのだろう。


「……といっても、今の状態は体内の魔力が動いていることによる賦活で、言ってしまえば一過性だから、それを維持できるようにするためには努力、訓練がいるわよ」

「一時的か」


 たしかに、言われてみれば臓腑の底に、落ちるような疲労がたまりつつある。

 先ほどの体験による感情の……まぁ、気疲れかと思ったが、そればかりとも限らないようだ。


「今のあなたは制御せずに魔力の消費をしようとしている状態ね。私が外部から一部コントロールしているけど」


 言われると左右の手から熱のようなものが動いているような気がする。


「無駄に漏れ出すような出口は塞いでいるから、意味のある部分だけにエネルギーが通ろうとしている。ただ、流す回路の方が『未使用状態』だから『ぎちぎち』だというわけね」

「慣らし運転、みたいな?」

「ある意味ではそうだともいえるかしら? ガス漏れを塞いで本来のラインに供給しながら締め付けが緩んでいく感じ?」


 例えが適切かどうかはわからないがダムの水門の試運転みたいなものだろうか。


「体に歪みや澱みがなければ、しばらく力を流し続けておくだけなんだけど……このタイミングでできれば出待ちをしている子にも登場シーンをあげたいわね」

「……誰がいるって?」


 この子よ、といった瞬間。彼女とアクセサリに潜む魔石たちとのラインは絞られる……絞られたように見える。代わりに、一本の新しいラインが可視化されて……光の粒が集まってできたようなラインはそのラインを円心として、粒自体とは別の色彩の光を放つ。


 魔力的な感覚で見るそれらの光は、可視光と同じ『色』の表現で正しいのかはわからないが、イメージとしてはラインが金色、新しく生まれた光は青の系統であるように見えた。


 金色の光はそれ以上いけないとでもいうように、空中で止まるが、その先端に生成される青い光が複雑な魔法陣を作ると戸惑うように先端を迷わせ……。


 青い光が明滅しながら、次第にその色を薄くしていく、白ではなく透明、消えていくに近い。

 しかし、それは無為に消えたわけではなく役目を果たしているようで……。


 金色の光が徐々に押し始める。青が消えたあたりであたかも『扉』が開いたかのごとくに先ほど止まっていた高さを超える物が出始めて、


「あ」


 声を思わず挙げたのは金色の光、その先端が戸惑うようにしながらも瑪瑙に触れたからだ。



 その結果、起きたのは光景としては単純。


 雪のその初めのひとひらが地面に落ちると同時に溶けて形を失うように、金色が失われるという見目。しかし、雪がそうであるように、染みて金色は広がる。融けた雪が水滴となり水たまりとなる様に。瑪瑙はしみ込んでくる金色を受け止め。


――それは広がり湖面になる。湖面に限らず、面というのは境界だ。


 こちらとあちらを違うものとするための境。平面においては線が境界となり、立体においては面が境界となる。


 つまり、その面は上と下が違うものだということを示しているのだろう。

 違うもの同士が触れ合うところに起こるのは何か……変化だ。

 変化する、変化して何が起こるか。今回の場合は……。

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