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014、帰還。誕生。生まれ変わり。

 衝撃としてはそんな感じだったが、実際に何かがおかしくなったと言う訳ではない。

 ただ、心拍が早く、心臓が溢れ、体が熱く、めまいがして、吐き気がして、視界がおかしいだけだ。

 結構な数の異常があるが、一つ一つは大した事が無い。


 せいぜいが100メートルを全力疾走したぐらいだろう。

 だが、たしかに、感じる物はある。


 ドクン、と心臓が跳ねるような気がしたが体に揺れは無く、つまり、鼓動のようなものであるのに心臓の動きによるものではないということだ。他もそう、体が熱くなった気がするが、熱は多分上がっていない。では、何が、脈動していて、何が、熱を感じさせたのかというと……、


――集中する。体に軸は無く、体に芯は無い。感じたのは意識が拡散するような一瞬の錯覚。


 それを何かに喩えるとするなら、まるで陸地で溺れたがごとくとでも言えばいいのか。

 足が地についている身体的感覚とは別に、自分がどこにいるのかわからない直観的な感覚がある。


『今、あなたが変調を感じているとしたら、それなりの素養があったということだよ』


 シャルの声、それはいま、縋りつくべきよすがとして耳ではないところから脳に伝わる……いや、実際には魂とやらに直接伝わっているのかもしれないが、ともかく。


『目を閉じて』


 いざなうように言われて僕は目を閉じる。そうしてもシャルの存在を感じる。

 彼女の柔らかな手のひらが、僕の胸と右の手の平に熱を伝える。なんだかよく分らない情報過多にシャットダウンしそうな、僕の意識が、


『吸って……吐いて』


 彼女の言葉に従うと、次第に整ってくる。

 体感で五分ほど彼女の声に従っているうちに、情報は次第に落ち着いてきた。

 まだ目を開く気にはならないが、次第に今の状況がわかってきた。


(これは、あれだ……)


 そんな経験はないので正確かどうかは分からないが、例えば、盲目の人間が急に視覚を得ただとか、味覚障害の人間が急に味覚を得ただとか、そういった類の感覚の拡張、それに近い。


 欠けていた感覚を急に得ると、急に外部から入ってきた情報は処理できない。あるいは、判断器官である脳がパンクする。今の自分はその『情報酔い』というべき状態になっているのだろう。

 だが、シャルの言葉に従って、深い呼吸を繰り返しているうちに情報の制御に慣れてくる。


 あふれるほどの情報に基準が存在したからだ。それが何か――、

 すがすがしいほど気恥ずかしいが、それは『私』と『貴方』だ。


 手を通して感じるシャルの体温。耳を通して感じるシャルの声。香り、熱量……姿はまだだが、そこにいる彼女と自分を比較。

 『ここにいて』、『そこにいる』というそれだけで。わかる気がする。


 世界は自分を取り巻いていてもどこまでも第三者で。

 地球は自分を支えていてもどこまでも第三者で。

 時間は自分を揺蕩わせていてもどこまでも第三者で。


 それでも、その世界の中に『私』と『貴方』さえいれば。


 万象が把握できる――! それは刹那の全能感、次の瞬間目を開き世界を認識すれば消えてしまいそうな淡やかなものであるが。


 確かに、この瞬間はそれがあった。それがあったと魂に刻めば、どこからでもここに来れる。

――僕は目を開いた。


「ただいま」


 彼女は一瞬、とてもびっくりしたような表情を浮かべて。

 けれど、眩いほどの笑顔とともに、


「おかえりなさい……!」


 と受け入れてくれた。

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