表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/51

001、彼と彼女と個室の話

 先月、訪れた時、このトイレは白熱灯の熱を感じる照明だったはずだ。


 今は、清潔感というか押し付けてくるような白の光の蛍光灯にかわっている。

 どうして、僕は天井なんかを見上げているのか。


 それはイイモノを見せてあげる、などという怪しい言葉に誘われてホイホイと多目的トイレに連れ込まれたせいだ。


 確かに僕の手を引く力は見た目相応の少女のものだったので、振り払えなかったなどというのは言い訳にもならないだろう。裁判官も信じてくれないだろう。

 僕はその二人でいるべきでない空間で確かに『イイモノ』を見せてもらった。


「ほら、きれいでしょう。触ってもいいのよ」


 そういって、見せつけられたそれはやたらと白い蛍光灯の光の下でなお、自己主張を強くするかのように光っている。艶めいていて、磨き上げられていて。どれだけの手間暇と繊細な扱いをされてきたのか、想像することもできないような美しいそれは、触れるだけで指紋を残してしまうだろう。


 魅了されるようにそれに触れると、彼女の体温――少しのぬくもりを感じる。


「でも、本当にみせたかったのは――こっちよ」


 そういって彼女は僕の触れていた――宝石を僕の指の間からつまむとそこに集中するような仕草をした。

 いや、仕草ではない、ただ、そうある様に態度を変えただけで目には見えない力のようなものがその月長石に集中しているのがわかる。


――計測できるものだけで世界が構成されているという強固な機械論的な現象の把握こそが唯一の真実であるという立場を取るのであれば、今、自分の感じているものは、僕の受容器のエラーか情報処理におけるトラブルであると解釈するべきだろう。


 あぁ、だからこそ、極めて癪な話だが。僕はこの直観による情報が世界の構成要素であると判断しなければならないらしい。


――つまり、眼前の少女は魔法使いなのだ、と。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ