001、彼と彼女と個室の話
先月、訪れた時、このトイレは白熱灯の熱を感じる照明だったはずだ。
今は、清潔感というか押し付けてくるような白の光の蛍光灯にかわっている。
どうして、僕は天井なんかを見上げているのか。
それはイイモノを見せてあげる、などという怪しい言葉に誘われてホイホイと多目的トイレに連れ込まれたせいだ。
確かに僕の手を引く力は見た目相応の少女のものだったので、振り払えなかったなどというのは言い訳にもならないだろう。裁判官も信じてくれないだろう。
僕はその二人でいるべきでない空間で確かに『イイモノ』を見せてもらった。
「ほら、きれいでしょう。触ってもいいのよ」
そういって、見せつけられたそれはやたらと白い蛍光灯の光の下でなお、自己主張を強くするかのように光っている。艶めいていて、磨き上げられていて。どれだけの手間暇と繊細な扱いをされてきたのか、想像することもできないような美しいそれは、触れるだけで指紋を残してしまうだろう。
魅了されるようにそれに触れると、彼女の体温――少しのぬくもりを感じる。
「でも、本当にみせたかったのは――こっちよ」
そういって彼女は僕の触れていた――宝石を僕の指の間からつまむとそこに集中するような仕草をした。
いや、仕草ではない、ただ、そうある様に態度を変えただけで目には見えない力のようなものがその月長石に集中しているのがわかる。
――計測できるものだけで世界が構成されているという強固な機械論的な現象の把握こそが唯一の真実であるという立場を取るのであれば、今、自分の感じているものは、僕の受容器のエラーか情報処理におけるトラブルであると解釈するべきだろう。
あぁ、だからこそ、極めて癪な話だが。僕はこの直観による情報が世界の構成要素であると判断しなければならないらしい。
――つまり、眼前の少女は魔法使いなのだ、と。