世界一短い夏休み 〜俺の過ごしたあまりに美しい1ヶ月〜
空が赤く染まる放課後の夕暮れ時。
「おーい」
誰かの呼ぶ声がした。
「んん、あー?」
「あー?じゃねぇよ。もう授業終わったぞ」
「そうか、ありがとう」
「当たりめぇだろ?ほれ、飯食い行くぞ」
「りょーかい」
俺は支度を始めた。
俺は夜迦愚 志鶴。
高校に入って髪を染め、楽しそうだからって言って校内新聞部を立ち上げて友達とワイワイやったりしている結構どこにでもいそうな高校生だと自分は思っている。
「ほら、時間無いんだろ?」
「茶化すなよ、うるさいなぁ」
友達が急かしてくる。
「そういやぁ、もう7月だなぁ」
「今更かよ。まあ、そうだな。あと少しで夏休みってところだけど」
今は7月16日。夏休みまであと4日だ。
「学校とは当分おさらばできるわけだな」
「ああ、てか高3だから遊んではいられねぇぞ?」
「俺はもう、推薦通ってるから」
「お前はいいよな!?ズリィよ!」
「はは、さて行くとするか」
ーーー
下駄箱に着くと、
「あ、夜迦愚!すまん!忘れもんした」
「わかった。ここら辺で待ってる」
「すまん」
あいつは3階に向かって行った。
「さぁて、ふらついてみるか」
俺は下駄箱から少し離れて職員室周辺を歩き出した。
「そうだよなぁ〜。これが最後かもしれないもんな」
俺はそんなことを口にした。
その時だった。
「……グっ!!」
発作が俺の体を電流のように流れた。
「はっ、はっ」
息が吸いにくくなって行く。気持ちわるい。苦しい、痛い、辛い。
多くの感情が俺の中で入り混じる。
(急いで保健室に…!)
そう思い俺は保健室まで走った。
ドアの前まで来るときには、もう吐いてしまうような感じだった。
急いでドアを開ける。
そこには、
「……え?」
「!?」
1人の女子生徒であり、俺が絶賛片思い中の少女、朱鳥巳 瑛李の着替え中の姿があった。
「え!?あ!?ちょ!!」
「うぐっ!」
ただ、俺は我慢できず吐き出してしまった。
多くの血を。
「ぐはっ!」
血が床に吐き出され、それが無造作に弾けて流れる。
「大丈夫ですか!?」
朱鳥巳さんは心配して俺に近寄って来た。
なんとも最悪の滑り出しといえよう。
ただ、それよりも最悪なのは
俺の持病を見られた事だった。
ーーー
「……死期速発作症候群?」
「そう、それが俺の持病なんだ」
あの後、血の処理をして朱鳥巳さんには着替えてもらった。
え?友達は?あいつは俺のことを気遣ったのかなんかしらねぇけど、帰った。
「………それってどんな病気なの?」
朱鳥巳さんは俺に聞いてきた。
「ああ、この病気はね」
俺は特にもう隠す必要がないので喋ることにした。
「心臓に障害がある人に発症するものなんだけど俺の寿命はある発作が起こるごとに縮まっていくんだよ」
「そうなんですか…」
「1回ごとに約10年」
「え!?」
朱鳥巳さんはその言葉にひどく驚いていた。
「じゅ!10年!?」
「そうなんだ」
そのとき俺は朱鳥巳さんの驚いた表情に対して可愛いなと心配している彼女の心と裏腹に思っていたことを覚えている。
「あと、俺の発作の回数はあと約1回」
「……1回…ですか」
「そう、俺の寿命はあと10年って言ったとこだよ」
「……」
「あ、このことは誰にも言わないでくれよ?一応友達にも言っちゃいないからな」
そういうと俺は立ち上がった。
「……でも、」
「……?」
口からボソッと本音が溢れた。
「できることなら、こんな短い、いつ死んでもおかしくない人生なら、もっと人よりも刺激的でめまぐるしい時間を、人1倍の青春を、もっとドキドキする日々を過ごしてみたかったなって心の底から思っちゃうんだよ。バカバカしいよな。こんな恵まれねぇ奴がよ。そんな贅沢を望んじゃぁいけないよな!」
立ち去ろうと俺は荷物を持った。
「んじゃ!朱鳥巳さんに話して少し楽になったわ!またあしっ…」
そのとき、
グッと俺の手を朱鳥巳さんが握った。
「…それなら」
「……?」
「私で良ければ力になります!」
「えっ?」
「夜迦愚さんが!もっと楽しい日々を送れるように私が!私で良ければ手伝わせてください!」
「……」
その言葉は俺の心をぐっと掴んだ。
その日から俺の青春が始まった。
ーーー
夏休みに入って早々に俺らは、
「うぉぉぉ!海ダァァァァァァ!!」
海に来ていた。
朱鳥巳さんと2人で。
朱鳥巳さんと2人、朱鳥巳さんと2人!
いいぃぃぃやっふぅぅぅ!!
モチベーションは上々だ。
「すごいはしゃぎようだね…」
「そりゃぁそうでしょ!だってリアルJKと2人きりで海だよ!海!!モチベーション上がらない奴はいないでしょ!しかもそれが好きな人ときた!かぁぁ!これで興奮しない男は男と言わないね!!!」
「……\\\」
朱鳥巳さんは顔を赤くしていた。
ちなみにあのあと色々とプランを立てた。
そのプランの1つが『好きな人への告白』だったことで俺は朱鳥巳さんに告白をした。
らしくもないことを言ったけどOKをもらったときは発狂仕掛けたよ。
ということで今は彼氏彼女ということだ。
朱鳥巳さんは髪は黒でショート。スタイルは良くて胸もそれなりにある。
髪留めを左にしていて、控えめな感じの女子だ。
んー、可愛い。
それが俺、夜迦愚 志鶴のタイプです。
「そ、それじゃあまず何しよっか?志鶴君」
ちなみに今はお互いに下の名前で呼んでいる。
これからはこっちでも瑛李と呼ぶことにしよう。
「そうだなぁ…どうすっかなあ」
「何かプランに描いてあったかな?」
そういい瑛李はカバンを漁り出す。
その姿をみて俺は率直に思った。
やべぇ、今更だけど水着超可愛い。
三角ビキニとはまた大胆に出たもんだ。
体型のカバーがしにくいのをあえて着るというのは自分の体によほど自身があるからに違いない。
「瑛李ちゃんさあ」
「はい?」
「自分の体型に自身ってあるの?」
「……っ!?」
そういうと瑛李ちゃんは顔を真っ赤にして体を手で隠した。
「わ!私はそんな自身なんて!!…持ってないよぉ〜…恥ずかしいもん…こんな大胆な水着なんて…」
「じゃあなんでそれにしたの?」
「そ、それは…き、気に入ってくれるかなって思ったから…」
「………」
少し上目遣いの瑛李をみて、俺は目を合わせられなくなった。
そこまで俺を気遣ってくれるのか!!?
俺はそんな感情の中、瑛李ちゃんに優しく言った。
「……すごく似合ってるよ」
「\\\!!?」
顔がさらに赤くなった。
可愛いなぁ〜。
楽しい夏休みの始まりだった。
ーーー
瑛李ちゃんは、
なんというか、話してから色々と印象が変わった。俺の中でね。
話すまでは、もっと落ち着いていて清楚なお嬢様気質のある子なのかなぁ〜って思っていた。
ただ、いざ話してみると何かと良く喋って元気で、何より静かな感じだと思ってた所が思いっきに逆転した。
「あ、そういえば」
「どうしたの志鶴君?」
「瑛李ちゃんってさ、夢とかあったりするの?」
「え、私?」
「そうそう!夢!」
「まあ…あるにはあるけど…」
「え!教えて!教えて!」
「…前に文化祭に舞台やったの覚えてる?」
「もちろん!瑛李ちゃんが主演だったから特に覚えてるよ!」
「……」
「?」
「…あとは察して…?」
「……もしかして女優さん?」
瑛李ちゃんは小さくだがコクッと頷いた。
「え!?本当!!うわ〜、みたいなぁ〜!」
「……なんか揶揄ってない?」
「全然!いや、でも意外だなぁ。てっきり脚本家にでもなるもんかと」
「そ!そんな才能私には無いよ!」
「でも、俺そこまで生きてられっかな?」
ヘラヘラしながら言った。
そういうと瑛李は下を向いた。
「…そんなこと」
「?」
「そんなこと言わないでよ!!」
大声で瑛李ちゃんは俺に言った。
「……」
「そんなこと……言わないでよぉ…」
「!?」
瑛李ちゃんは涙をこぼしていた。
「え!?ちょ!ちょっと泣かないでくれよ!」
「ばかぁ…」
瑛李ちゃんは手で涙をぬぐいながら俺に言う。
瑛李ちゃんは辛いのかな、俺がいなくなるのは……。
この時は、
彼女の優しさがとても辛く、痛かった。
ーーー
「……めずらしいね、待ち合わせに遅れるなんて」
「はは…ごめんなさい」
「理由は?」
「寝坊でございます」
「…本当?」
ギクッと思わず同様してしまう。
「ほ、本当だよ!」
「……まあ、いいけど」
プイッと視線を変えた。
「本当にごめんな?」
「ほら、早くいこ」
今日は2人で舞台を観に行く約束をしていた。
公演時間より早めの集合で良かったぁ〜。
え?遅れた理由?
………、
理由は発作だ。
朝起きると、突然気持ち悪くなって
トイレ行って吐いたら、
真っ赤な血が俺の口から出てきたんだよ。
どうやらこの発作は体に、てか心臓に負荷がかかると発症する可能性が高くなって行くらしい。
ただ、
まだ、俺は生きている。
それが只々嬉しくてたまらなかった。
このことを言うと瑛李ちゃんに言ったら、また泣かしちゃう気がしてね。
しかも、今回行くのは瑛李ちゃんがずっと行きたがってた舞台だ。
無駄な心配はさせたくなかったのさ(キラリンッ)。
「そろそろだね」
「うん!」
瑛李ちゃんはとても楽しみにしているような顔だった。
それもそうか、
夢が女優さんなんだもんな。
………、
それまで、俺は生きてられるだろうか、
瑛李ちゃんの舞台を観れるだろうか。
みたい、できるのなら。
彼女の夢を応援したい。
心の底からそう思う。
そんなことを考えていると舞台の最後のシーンになった。
「ねえ」
「どうした?」
「私、絶対に有名になるから」
「うん」
「それまで、諦めないでね」
「?」
その言葉は何か意味を持っていたのだろうけど。
俺には分からなかった。
ただ、時間が過ぎて行く。
今は8月26日、
あまりにも目まぐるしすぎて時間の経過が早すぎる日々を過ごした。
ーーー
俺はもう、長くない。
いつ死ぬかわからない。
だから、最後に、
プロポーズをしたかった。
生きている間には絶対に味わえないこの喜びを味わいたい。
いつ最後の発作が来るかわからない。
なら俺は彼女に、朱鳥巳 瑛李に。
最後の言葉を、
最愛の人への言葉を伝えたい。
8月30日、
これが夏休み最後。
一緒にビュッフェを食べに行く約束をした。
「この日のために」
俺はバッグから指輪を取り出した。
ついでに手紙も添えてある。
一言だけ綴った手紙。
「うん、行こう!」
俺は家から飛び出した。
彼女のいる場所へ。
電車に乗り込み体の中で一定のテンポを刻む心臓を叩いた。
「はあ、はあ」
高鳴る鼓動とともに体が熱くなって来る。
電車から降りる。
ホームから出ると俺はただ、走った。
そして、
運命の時が訪れる。
「……グッ!」
吐き気だ。
ただ、
止まるという思考が俺の中に来る前に、
伝えたい意思が俺のその考えをかき消した。
走れ、
走れ!
動け!
迷うな!
全速力で横断歩道を渡った。
パァァァァア!!
「!?」
光が俺の視界を遮った。
グシャぁ!
血が道路を巻い、弾けた。
どこからか悲鳴が聞こえる。
助けを呼ぶ声も。
「あ…あーあ……くそ……キス……で…もしとけば…よか…た…な」
指輪は俺の手にしっかり握られてたらしい。
俺はその日18でその生涯を閉じた。
「遅いなぁ」
瑛李ちゃんが俺の死を知るのは2時間後くらいだったという。
ーーー
え?
その後はって?
……少し、話そうか。
瑛李ちゃんは俺が死んだって知ったときは泣かなかったらしい。
そして葬式で指輪はと手紙をもらったときは静かに「ありがとう」って何回も呟いてたみたいだ。
そして、瑛李ちゃんは女優になるっていう夢を叶え、多くの有名ドラマや映画に出て数多くの賞をもらった
瑛李ちゃんはその生涯を41で閉じた。
ここからは無駄な余談だが、
瑛李ちゃんは女優になってからも可愛い可愛い言われてて彼氏の話もよく出たみたいだ。
ただ、決まって彼女はそういう話題がでるとこう言っていた。
「私はそういうのはもう十分ですから」
その言葉通り瑛李ちゃんは恋愛をすることはなかった。
だが、瑛李ちゃんが亡くなったあとに家のものを片す際、結婚指輪が2つと手紙が2枚見つかったらしい。
1つには知らない字で「最愛なる君に」と書いてあった。
そしてもう1つには瑛李ちゃんの字でこう書いてあった。
「私のたった1人の最愛なる貴方、夜迦愚 志鶴へ」と。
どうでしたか?
この小説の感想を書いていただけると嬉しいです!
それだはまた別の作品で!