想いを返す
ホワイトデーの話です
ホワイトデー。3月14日。
その日は俺、天野仁志にとって特別な日だ。
一ヶ月前のバレンタイン、俺は幼馴染の佐藤 ちこからの告白を受け付き合うことになった。
しかし、それ以降に大きな進展はなかった。
今まで幼馴染という、とても近い存在だった為か恋人になってからの距離がわからない。
「ひーくん、はーやーく」
いつものようにちこが俺に家まで迎えに来た。俺は急いで準備を終え、ちこの元に向かう。
「じゃ、行こうか」
「うん」
ちこのその笑顔はとても愛らしかった。
学校までの道、俺とちこは普段通り話をした。その話は特に意味もないことだったが、ちこと話していると本当に楽しかった。ふと俺は自分の手の方に目線がいった。俺の手とちこの手は微妙な距離があった。繋ぎたいが繋げないそんな距離が俺とちこの間に空いていた。
「仲良しだね、お二人さん」
親友の阿木友也が後ろから声をかける。
彼の横には高原由美がいる。二人は互いの手をしっかりと握っていた。その光景は自分には輝いて見えた。
「ちょっと時間いいか?」
友也は俺だけを連れて先を急いだ。
「お前、どうするつもりだ?」
「なにを?」
俺は友也に訊き返した。
「明日はホワイトデーだろ。お返しとか決めたのか?」
「まだ…だよ」
「間に合うのか?」
「わかってる…でも」
俺は少し焦っていた。
ちこと付き合って一ヶ月でもある大切なその一日、自分は彼女になにを渡せることができるのだろう。
「なぁ、放課後空いてるなら一緒に買いに行こうぜ。実は俺もまだなんだよ」
くすっと笑いかける友也。
それの優しさが何よりも嬉しかった。
放課後になり、俺と友也は近くのデパートに寄った。雑貨からアクセサリーまで幅広い分野が売られており値段もお手頃なのが多い。
「なぁ、友也は何にするんだ?」
「命…かな」
「なに冗談言ってんだ?」
「はは、冗談で済めばいいな」
少し前に友也の話を聞いたことがありその頃言っていたのが『愛が重い』だった。それでも、友也はそんな高原さんのことが好きで守ってやりたいのだとも言っていた。俺にとって二人は憧れだ。
「そうだな…クリスマスには互いの好きな色でのマフラーをお互い買ったけどホワイトデーは難しいよな」
友也は真剣に考えている。それほど高原さんが大切なんだろう。あと自分の命が…。互いの好きなものか。
小さい頃から、ちことはずっと一緒にいた。初めて意識した時は同い年だが妹みたいだった。
ずっと俺の後ろでモジモジしていてよくこけたりもしていたな。その時から俺はちこを見ていたのだ。
ずっと、ちこだけを追っていた。
ちこを妹みたいに見えていたのは誕生日もあるのだろう。同い年だが八月生まれだけど俺の方が早く生まれている。年上面したかったのだ。
その時、俺の脳裏に一つの考えが浮かんだ。
次の日の放課後。
俺は体育館裏にちこを呼んだ。
「何の用かな?ひーくん」
無邪気な笑顔を見せつけてくる。
「気づいてるくせに…」
「はっきり言ってくれないとわからないな」
「ほらよ」
俺は二つのペンダントを見せる。
「なにこれ?」
俺の手には二つのネックレスがある。
緑色の石と赤色の石の二つだ。
「緑のやつはペリドット、赤色の石はサードニクス。二つとも八月が誕生石なんだ。俺も昨日、調べたんだけどね」
「私のために?」
「あ、当たり前だろ。それにちょうど俺とお前の好きな色じゃないか」
俺は緑が好きで、ちこは赤が好き。
「ありがとう、ひーくん」
ちこはサードニクスのネックレスに手を伸ばす。
「違うよ、ちこのはこっち」
俺はペリドットの方をちこに渡す。
「互いに互いが好きなものを持っていたいんだ」
「うん、いいよ」
満面の笑み、俺がちこの表情で1番好きな顔。
「あと、もう一つプレゼント」
そう言って俺はちこと唇を合わせる。
その時、時間が止まった気がした。
「ちこ、俺はちこのことが大好きだよ。
これからも隣にいてくれ」
それは初めて俺から伝えた、ちこへの想いだった。
「な、な、なに言ってるの」
ちこは顔を真っ赤にしてそらす。
「帰ろうか」
俺は自然とちこの手を握っていた。
「うん」
俺が一つ、ちこに伝えなかった想いがあるそれはこの二つの誕生石の意味。
『夫婦の幸福』
その意味を伝えるのは今ではない。
しかし、そう遠くない。近い未来に俺は彼女にこの意味を伝えよう。
その時は「大好き」でなく「愛している」と…。
キュンキュンして頂けましたか?
男性の皆さん、しっかりとお返しをしましょう。大切ですよ
これで完結します