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縦横家になろう

作者: かずっち

ウソ歴史。


実在する個人、団体等とは一切関係ありません。

 小説家になろう。千一夜の如く日々の更新を怠らない作家陣にはただただ驚くばかりだ。

 彼らにスランプは無いのか? 私は創作に煮詰まった時、頭の中をからっぽにして張儀に祈る。そして今も祈っている。


 張儀、生年不明、紀元前309年没。言葉を操ることにかけては右に出る者のいない縦横家。

 三国志の関羽が商売の神であるならば、張儀はワナビの信仰対象ではなかろうか。それ故私は祈るのだ。

 祈りついでに彼の人生を小説家になろう的視点で読み解いてみたい。それがスランプを脱する為の足がかりになると信じて。


 張儀が貧困生活の只中にいた時、とある男に盗みの嫌疑を掛けられ袋叩きの目にあう。なろう的にいえば盗作だろうか。

 満身創痍の彼は妻に尋ねる。

「俺の舌はあるか?」

 何をのんきにとあざけりつつ「ある」と答えた妻に張儀は満足げにうそぶく。

「舌は我が資本」

 このセリフは舌があれば十分だ、舌があればそれでいい等、名言故に言い換えが多数存在する。

 書籍化、漫画化、アニメ化、劇場版、こだわりのある作者は注意すべき案件である。


 張儀は昔なじみの学友、趙国で出世を果たした蘇秦に会いに行くも、つれない態度で追い返される。

 二人は比較されることの多い宿命のライバル。あくまで私見であるものの、才能故に大言の張儀に対して蘇秦には謙虚なイメージがあるが、後に六男ならぬ六ヶ国同時宰相を務めるなど蘇秦も相当な野心家だ。(同時宰相には否定説有り。蘇秦は張儀に比べて不明瞭な点が多い)


 蘇秦、彼も貧しさに苦しめられた過去を持つ。

 家族から冷遇を受ける中、その屈辱をバネに一年間、猛勉強に明け暮れる。

 彼が学んだのはなろうで流行(はやり)の内政でも料理でもなく、ただただ権力者を説き伏せる方法。

 なろう的に言えば読者を選ぶタイプか。蘇秦は賭けに出た、縦横家かくあれだ。


 勉強中、睡魔が蘇秦を襲う度、眠気覚ましとばかりに己が太ももにキリを刺す。

 足を伝う鮮血、踵を染め上げる。きっとペンネームは赤カカト。

 彼が主人公なら耐性がつくか新しいスキルを覚えるか新しい性癖に目覚めるところだ。

 努力チート、それは流血と努力か。ともあれ彼は栄光を掴んだ。(※:危険ですので真似をしないで下さい)

 蘇秦の最期、その時見せた彼の機知には張儀の才に陶酔する私でさえも創作者の端くれとして嫉妬を覚える。余りの嫉妬にここでは割愛する。


 話を張儀に戻す。蘇秦につれなくされ、彼を見返そうと発奮する張儀。

 やがて秦国で頭角を現し、名が広まった彼の元へ蘇秦の使者がやってきた。

「陰からあなた様を支えたのは蘇秦様でございます」

 やり過ぎれば相互垢が疑われる案件だ。


 秦国の宰相となり権勢を得た張儀は、過去に盗みの嫌疑をかけた男に脅しをかける。

 これぞカタルシス! 読者の心を鷲づかみだ。

「あの時は盗みを疑われた。今度は本当にパクらせてもらう!」


 舌先三寸、張儀の快進撃は止まらない。隣国の楚王に甘い言葉で第三国、斉との同盟破棄を願い出る。

 秦国の王宮広間で楚国の将軍が張儀に告げる。

「同盟は解消済みだ。約束通り一日三話、掲載させよ。我が王は己が身を案じ、レイ公の結末を早く知りたがっておられる」

 約束の実行を迫られた張儀、果たしてその返答は?

「そんな内容だったかなぁ、私は作者じゃあるまいし。……思い出した! 私は一日分を三行にまとめる、そう言ったのでは?」

「そんなもの既に有るわ!」

 楚の将軍は激怒するも張儀はとぼけて取り合わない。楚国、怒りの出兵。

 しかし同盟国を失った楚に勢いは無く、楚国大敗の後、和平交渉が始まる。張儀の分断策は成功した。


 和平の条件として楚王が要求するのは張儀の身柄ただ一つ。

 その要求に張儀は身の危険を顧みず、楚国に向かい、牢に繋がれる。


 牢暮らし、さながら執筆部屋。なろう的には筆が捗るかもしれない。

 日に一万文字、いや十万すら余裕か? しかも漢文なれば相当な内容量になる筈。

 しかし我らが張儀、そこで発したのはたったの二文字。

失寵(しっちょう)

 語った相手は手下とも、牢の番人とも言われる。

 本当に二文字なのか、はたまた事前に入念な打ち合わせがあったのか? 

 諸説ある中で私は二文字だと信じる。そこにロマンがあるから。


 失寵――寵愛を失う。

 その意味は張儀の才能を惜しんだ秦王が、彼の助命に宝物と美姫を惜しまず差し出して来るであろうから、今現在、楚王に仕えている寵姫の地位は次第に危うくなる。

 その前に張儀を帰して楚王の心変わりを未然に防ぎましょう、と寵姫に働きかける策である。


 しかし、なろうかぶれの寵姫は動かない。なぜなら失寵こそがなろう的主役になるチャンスなのだから!


 悲劇のヒロイン、寵姫の気分は婚約破棄。

 ひそみに倣い寵姫はうそぶく、そんじょそこらの美女計なにするものぞ、「吾輩こそ西施である」。


 かくして張儀の命運は楚王に委ねられる。頑張れ張儀! ファイトだ、なろうのアラビアンナイト!


  ◇◇◇


 楚王の求めに応じて、千一夜の如く日々の更新を怠らない張儀にはただただ驚くばかりだ。

 彼にスランプは無いのか? 私は創作に煮詰まった時、頭の中をからっぽにして屈原に祈る。そして今も祈っている。


 屈原。理屈抜きに大詩人。それ故私は祈るのだ。

 祈りついでに彼の半生を小説家になろう的視点で読み解いてみたい。私もそろそろジャンル替えの頃合いかなと憂いつつ。


 屈原は秦国とその使者である張儀を危険視して、再三にわたり楚王に警告するが受け入れられない。

 ついには失意の中、懐に石を抱いて入水する。

 しかし私の脳内に存在する”なろうユニバース”では張儀は牢の中に居る。

 それなら屈原はなろう的に幸せになれるのだろうか。


 詩、詞、なろうは替え歌に厳しい。そして今はPPAPすら勝手に商標出願される、ある意味、戦国時代。

 きっと思いもよらぬ苦難が純粋すぎる男に襲いかかる。屈原といえど才能だけではどうにもならない事があるかもしれない。

 なにせ彼は天才であると同時に天然の虐げられ体質。日本じゃ屈原とは”洟垂(はなた)れ小僧”の代名詞だ(ウィキ情報、ひどい替え詩だ!)


 案の定、屈原の元に一度目の警告が来る。

 ここでは詳細を語らぬが、”ドラゴンボート”が”ドラゴンボール”に引っかかったのだ。


 しかし”羹に懲りて膾を吹く”を善しとせず、屈原は態度を改めない。

 その姿は空腹に耐える修行僧さながら。この男、つくづく懐石に縁がある。


 されど憐れむなかれ、彼には心強い相棒がいる。そうです、ちまきちゃんです!


  (完)

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