安易な白い部屋の設定利用は危険
読み進める前に注意事項としてあらすじをご確認下さい。
『
もはや日付の感覚は無かった。
数えた食事の回数も気の狂いそうな周囲の色に溶けた。
どれだけ暴れまわろうが喚き、騒ぎ立てようが全て四方の壁が反響もせずに吸収してしまう。
時折表れる神は悪魔の存在を否定する言葉を口にする。
そうしたものを信じてはいけないと。
そして「神ではない。御使いだよ」とも否定した。
この空間と同一色の衣服を纏った二人の従者も肯定する。
「君が外に出るにはもう少し時間が必要だ。何より危険が多い。君自身の安全のためにも暫く辛抱して欲しい」
そう優しく微笑んで言う御使いの真っ直ぐな瞳に気後れして視線を外す。
それでも自分が信じられるのは最早彼だけだった。
目が覚めると白い天井。
気落ちして俯くと白い床。
この空間は明るさの強弱で擬似的に昼夜を作り出せるようなのだが、寝そべるベッド意外何もない。
気温も一定に保たれる様で羽織る掛布団さえも無かった。
そうコレはアレだ。
俗に言われる“白い部屋”。
web小説序盤に登場するテンプレート的なアレに違いないだろう。
トラックに撥ね飛ばされる人を目の前で目撃したと思った瞬間には身体中を打ち付ける衝撃を最後に意識は遠退いていた。
次に気付いたらココにいたと言うわけだ。
そして現れたのは女神ではなく男で、彼は神でもなく御使いだったが。
此処でチートを貰って異世界に転生ってまでがセットでテンプレートだと思っていたが、危険だと言う理由でこの部屋から出る事が叶わない。
何て過保護な扱いだろうか。
もちろん、入口から入った分当然出口から出るものがある訳で、白い壁の切れ目の先に用意されていたトイレと呼べる空間を利用していた。
一応プライベートには配慮してくれいるらしい。
一層狭く白い壁に囲まれたプライベートスペースには扉はなく、洋式の便座とペーパーが有るだけ。
勝手に洗浄されるので匂う事も掃除をすることも無かった。
早く此所から出して欲しいと願ったが此所から出ることは出来ずにいた。
ココに来る前、あの衝撃を受けた時にキズを追ったようで記憶に障害が出ているらしいことも理由の一つだったかも知れない。
あの優しい声で語り掛けてくれる御使いの力では治すことは不可能らしく、福音がどうのこうのと真剣に悩んでくれていた。
初めの頃は無理矢理にも出て行こうと彼是試したが無駄だった。
ここ暫くはそんな気も起きず、もて余した体力を腕立てや腹筋背筋に費やした。
少しはステータスが上がるだろうか。
ベッドの上で膝を抱え、静かに壁を眺める。
そろそろ食事の時間だろうと思ったのだ。
白いキャンバスに黒い長方形がスッと描かれたのに気付くと、ヌッとトレーに載せられた食事が現れる。
あの一瞬見えた真っ暗闇の先が異世界だろうか。
流石にあの大きさでは腕が入るのがやっとだろう。
そうして時間を潰す。
縦に大きく黒い長方形が現れる。
きっと彼だろう。
「調子はどうだい? よく眠れているかな?」
優しい声に安堵する。やはり御使いだった。
よく眠れていると伝えると、御使いはお試しで一度外界に出てみようかと聞いてくる。
もちろん出たいと応える。
外。
木々に囲まれた一画。
土の感触と匂い。風の揺らめき。日の温かさ。
久しぶりに触れる無機質以外の感覚と人工的でない明るさに心が踊る。
男。
御使いと従者以外の者に合う。
少し変わったイントネーションのその男は「土いじりって落ち着きますよね」と同意を求めてくる。
此処等で自分の焼いたパンを売っているらしいその男は幾つもの鉢に土を移し、指先で孔を開けると手にした種を落としていく。
他愛のない話しをしながら、穏やかな時間を過ごす。
きっとこの世界は優しい世界なのだろうと思った。
いったい何が危険だと言うのだろうかと少し憤慨した時だった。
「危ない!!」
突然の叫び声に横を見ると本当はファーマーに成りたかったと語ったパン屋が血塗れで倒れていた。
倒れた彼の頭部から流れる血とその原因であろう大きめの石が転がっている。
ドンという衝撃でまたしても気を失った。
都合二度目だろう。
やはり目が覚めるとまた、白い部屋だった。
農家志望のパン屋は無事なのだろうか。
御使いはちょっとした手違いが合ったことを謝罪してきた。
此所から出るにはまだ早かったことも含めて。
あの優しい世界を知ってしまった今、耐え難い衝動に駆られる。
もう一度彼処に行きたいと。
だから、じっと機会を伺っていた。誰にも気取られる事なく、ひっそりと。
そしてチャンスは唐突に訪れる。
閉じられる筈の縦長に伸びた黒い空間がホンの僅かだけ残ったままだった。
チートなど無くとも、彼処まで行ってやると、決心する。
白い壁に手を掛け黒い空間を押し広げる。
その空間操作能力によって拡げた黒い空間が閉じる前に身を滑り込ませる。
黒い隙間の先は……ダンジョンだった。
体格の良い人型に終われ逃げる。今のはオークだろうか。
通路の行き止まりで呻きながら小刻みにツ、ツ、ツと爪先だけで回り続ける人影。
無感情とでも表現できるであろう弛緩した顔に恐れおののくく。
硬く閉ざされたダンジョンの扉の前で進退窮まると、二度目と似た衝撃。
この部屋で気が付くのは三度目。
死に戻りってやつだろうか。
目映い程の明るさだけで色のない部屋に狂いそうだ。
』
そう言うことがあってはいけないなと、設計士は間接照明と引戸案を捨て、色合いを変更した。
この手の妄想オチは既出だとは思いますが、何かを参考にしたとかはありません。
あまりにも似通っているものがあれば、余計なトラブルを避ける為にも内容の削除を行いますのでご連絡下さい。