絶対絶命。何度目だよコンチクショー
久しぶりの投稿です。
次か、その次の話辺りで、ヒロインが登場しますよ。
因みにロリだ。
誤字脱字の可能性大です。
絶望の化身がいた。
俺からすれば圧倒的強者であった筈の赤突猪でさえ、ソレの前では無力な獲物に過ぎない。
「グラァァァ……」
圧倒的強者さえも霞む、絶対強者。
そんな相手と対峙するのは、身動きすらマトモに取れない無力な俺だ。
「冗談キツイぞ、マジで……!!」
呪うべきは自分の不幸体質か。はたまた、こんな場所に俺を送り込んだ駄神様か。
「グラァァァ!!!」
どうやら現実逃避はここまでのようだ。
ザイロスの咆哮は、魂を直接震わせるような圧があった。
そんな物を至近距離で聞いてみろ。おちおち考える事すら出来やしない!
「っ……」
「ブフゥゥ……」
俺と赤突猪の間に緊張が走る。
さっきまでは獲物と捕食者の関係であった俺たちだが、今では立場は同じである。
両者共に、ザイロスの獲物。
「……どうすれば良い……?」
逃走? 逃げ切れる自信なんて無いし、そもそも身動きが取れない。
戦う? 逆立ちしたって勝てやしないし、そもそも俺は触れない。
「……なら、選択肢は一つか」
ザイロスが立ち去る事を、神に祈って耐え忍ぶ。
「……【透過】があるとはいえ、高確率で死ぬんじゃねえのコレ?」
と言うか、神の知り合いの殆どが駄神だしなぁ。
神頼みが一切信頼出来ないというね。
「グルル」
......何故かザイロスが俺をガン見してるんだけど。
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ザイロスはソーマに興味を示している。
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変なウィンドウ出た!? てか興味ってマジかオイ!?
(これ死んだな......)
何故だろう? 面白半分で散々なぶられた挙げ句、パクリと頂かれる未来が見えた。
(いや! 諦めるのはまだ早い!)
思い出せ。初めてザイロスと遭遇した時も、絶体絶命のピンチだったじゃないか。それでも、何とか危機を脱したじゃないか。
諦めるな。機会を待て。諦めたらそこで試合終了だ!
「......」
「グルル」
見つめ会う、俺とザイロス。
ザイロス程の化物だ。何かをするにしても、チャンスは一度しか無いだろう。
(落ち着け。焦るな。必ずチャンスは来る筈だ!)
張り詰めた空気。視線による静かな攻防。
そして、時は来た。
「ブフォォ!!!」
静寂に耐えられなくなった赤突猪が、ザイロス目掛け突進した。
無謀な特攻。愚行とも言える捨て身の一撃。
だが、俺は見た。確かに見たのだ。
猪の瞳に宿る、覚悟の光を。
「ブフォォァ!!!」
勝てぬのなら、逃げられぬのなら、せめて一矢報いてやろうという、決意の灯火を。
(い、猪ィィィ!!!)
格好良すぎるだろう。
さっきまで獲物と捕食者の関係だった俺が言うのもアレなのだが、赤突猪には、一人の漢として敬意を抱かずにはいられない。
それほどまでに、赤突猪は雄々しかった。
四肢で大地を踏み砕き、咆哮は大気を揺さぶり、身体は赤き閃光と化す。
恐らく、猪の生の中でも最高の一撃であろう突撃と言える筈だ。
「ルオォォォン!!」
赤き彗星となった猪は、その背中で俺へと語り掛けてきた。
『先にあの世で待ってるぜ』と。
「猪ィィィ!!!」
なんなのアイツ!? なんなのアイツ!? 何で猪の癖にあんな格好良いの!? 何で豚の仲間の癖してあんなに漢気溢れてるの!?
「いっけぇぇぇ!!!」
あんなの応援したくなっちゃうじゃん! さっきまで命狙われてたけど、それでも頑張れって思っちゃうじゃん!
あの化物狼に、どうかあの突撃が届いてくれと願っちまうじゃないかよ!
「ルオォォォン!!」
猪の決死の一撃を、奴の最後の死に様を、俺は決して目を反らすまいと見守った。
だが、現実は非常であった。
「グルル」
小さく鳴いたザイロスは、おもむろに前足を振り上げ、
ズガァァァンッッ!!!
向かってきた赤突猪の頭を、容易く大地へと叩きつけた。
「......ォォ」
赤突猪の頭は大地へ深くめり込み、周囲一帯に真っ赤な花が咲く。
断末魔の叫びすらあげる事無く、猪はこの世を去ったのだ。
「い、猪ィィィ!!!」
分かってはいたさ。猪とザイロスには、果てしない程の差があった。
だがそれでも、最後の突撃は、単純な力量差をひっくり返しかねない何かがあった筈なのに。
それでも、ザイロスには届かないのかっ......!?
「本当に化物だなオイ......」
改めて思い知らされた。
伝説として語られる、次元の違う強さというものを。
そして、こんなのが普通に存在しているのが、異世界なのだと言う事を。
「グルル」
「......てか、今更そんな事を実感してる場合じゃないわ。完全に俺、ロックオンされてるし......」
さっきまでは猪がいたが、今はもうザイロスの他には俺しかいない。
となれば必然的に、ザイロスの意識は俺へと向けられる事になる。
......死ぬよなコレ?
「......考えろ。どうすればこの状況から逃げだせる?」
どうすれば、俺は生き延びる事が出来る?
「グルル」
何度も言うが、逃亡はまず不可能だ。三メートルサイズの狼から逃げられる程に俺は健脚じゃない。というかそれ以前に、今の俺では五十メートルすら走れないだろう。
攻撃手段も皆無。今の俺は透過状態なので、物理攻撃は無理。魔法も使えない。......いやまあ、攻撃手段があったとしても、ザイロスを傷つける事なんて無理だろうけど。
せめてもの救いは、ザイロスの攻撃も効かない事。けれど、それも時間制限付きだ。てか、ザイロスなら透過を乗り越えてくる可能性もある。
「マジでヤられる五秒前」
......ネタに走ったけど、冗談じゃ済まないよなコレ。
「……やっぱりアレしかないか」
絶対絶命なこの状況を、唯一ひっくり返せる可能性のある手段。
あくまで可能性であって、かなりの確率で碌な事にならないであろう手段。
「エニグマかぁ……」
頼りにならないチートってどうなのよ……。
「グルル」
とは言え、ザイロスに通用しそうな手段はエニグマしか無い訳で。
ここまで来ると、腹を括る以前の問題とも言える。だって、後は猪と同じように特攻するしか無いし……。
(……ん? 特攻?)
ちょっと待て。今、何やら頭の中で引っかかった。
エニグマ以外で、この状況を打破する糸口が見えそうな気がしてきた。
(……状況を整理しよう)
まず、俺は逃亡と攻撃が出来ない代りに、ザイロスからの攻撃を透過で無効化(制限時間付き+突破される可能性有だが)出来る。
ザイロスは、俺に何故か興味を示している。その為なのか、向こうから攻撃してきそうな気配は無い。……とは言え、観察されてるような雰囲気は感じているので、逃たら追いかけられそうではあるが。
そして周囲にあるのは、木と草と猪の死体のみ。
(……何処に助かる糸口があるんだよ……)
役に立ちそうな物など皆無ではないか。
やはり、さっきのは気の所為だったのでは?
(特攻のワードが何かピンと来たんだけどな……。それだと猪の二の舞………あ)
待て。ちょっと待て。今、本当にピンときたかもしれない。
(特攻、猪の死体、透過……)
僅かに見えた希望を紡ぐ為に、今の状況、過去にザイロスと出会った時の状況を、鮮明に思い出さなければ。
(あの時も絶対絶命だった。認識はされていなかったが、ザイロスは匂いで俺を特定しかけた)
そして、あの時は血の匂いに紛れる事によって助かった。
(だったら……っ!)
賭けにはなるが、もしかするともしかするかもしれない。
多少の危険はあるが、エニグマを使うよりはマシだろう。
(駄目で元々。失敗しても、死ぬ事は無い………と思いたい。それが駄目でも、エニグマだってある)
使わないに越した事はないが、それでも次の手はあるのだから。そこまて気負う事は無い。そういう事にしたい。
(それじゃあ、ギャンブル開始)
決意と共に、腰を僅かに落とす。
「グルル」
ザイロスは俺の雰囲気が変わった事に気が付き、興味深そうに目を細める。
(……笑った?)
何となくだが、そんな気がした。いや、獣の表情なんて知らんけども。
それでも、妙に楽しそうと言うか。
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ザイロスはウキウキしている。
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(しとるんかいっ!!)
突然出てきたウィンドウに、俺は思い切りツッコミを入れた。
いらねーよそんな状況!
(なんか、ウィンドウが変になってる)
いつの間にか、ウィンドウが妙な情報まで掲示するようになっていた。バグったのかな?
(いや、今は無視だ)
無駄な事に思考を割いて、策が失敗したら堪らない。余計な事は後回しで良い。
全ては、この状況を切り抜けてから。
「……行くぞオラぁぁ!!」
気合によって自らを奮い立たせ、ザイロス目掛けて特攻する!
「……グル」
何故かザイロスから失望したような雰囲気が漂ってくるが、そんな事を気にしている余裕は無い。
何故なら、ザイロスが億劫そうに前を足を上げたから。
(来るっ)
やる気など微塵も感じないが、あの足からの攻撃は脅威だ。
四本腕の大熊も、猪も、あの足による一撃をもって惨殺されているのだから!
(透過なんて無い物と思え! 出来る限り回避しろ!)
エニグマは腐っても神域の魔法。幾らザイロスであっても、スキルすら使っていないだろう攻撃が通用するとは思えないが。
(だからと言って、油断する気にもなれねえよ)
敵は王の名を持つ怪物。その程度の出鱈目、あったとしても可笑しくない。
そして何より、
(こんな攻撃、躱そうとしないとか無理だからっ!)
迫り来る爪が、ザイロスの顔が、嫌でも身体に回避行動をとらせるのだ。
(でも、それでもっ)
足が竦んだら転んでしまう。無理に躱そうとすれば、身体が固まる。
だからこそ、怖くても我武者羅に前に出る。
既に足は振るわれた。もう十分に射程範囲。俺がいるのは、正真正銘のキルゾーン。
「ウォォォリャァァ!!」
「グルル」
爪が、足が、俺を引き裂き、叩き潰さんと近いてくる。
その光景を、鮮明に捉える事が出来た。
(……久しぶりだ。この感覚)
死ぬような状況に何度も遭遇し、その度に起きた現象。
脳が生き残る方法を探す為にフル回転する事で起きる、思考の加速。
ちょくちょく死にかける俺からすれば、これはお馴染みの感覚だ。
(このもどかしさも、変わらない)
思考に肉体が追いつかず、自身の一挙手一投足がゆっくりに感じてしまう故のもどかしさ。
だが、
(今の状況なら、有難い!)
本来ならば視認する事すら不可能なのに、それを見る事が出来るのだ。
直撃必至の不可避の攻撃を、躱せるかもしれない。
(軌道はこのまま……出来る限り身体を捻れば……っ、それでもキツイか!)
鈍化する世界の中で、やはり攻撃は躱せない
という事実に至る。
どうやっても、ザイロスの爪は脇腹を抉る。
余波だけでも挽肉になりかねないのに、直撃すれば即死は確実。
不可避の攻撃は、やはり不可避であったのだ。
「……」
それを確信しているザイロスは、瞳から光か消えていた。
結果が分かりきっていたから。必然故に、ザイロスは感情を動かさず、ただの作業のような感覚で、命を刈り取っているのだろう。
だが、今回は違った。
(俺は作業で殺されるのはまっぴらなんだよ!)
爪は俺の脇腹を抉る事無く、そのまますり抜けた。
「グル!?」
流石のザイロスも、これは予想外の事態だったようで、驚いたような声を上げた。
俺は戸惑い混じりの鳴き声を背中で聞きながらも、決して止まる事無く走り続ける。
(ザイロスがこっちを振り向く前に、このまま駆け抜ける!)
目標は、頭を潰された猪の死体。
幸いにして、猪の死体は直ぐ側。
ザイロスも、突飛な事態に戸惑っており、俺のを方をまだ向いていない。
(飛び込めっ)
奴がこちらを振り向く前に、俺は猪の死体の中に飛び込み、潜り込む。
血や内蔵の香りが全身を包むが、そんな事を気にしている場合じゃない。
(息を潜めろ。音を立てるな。気配を消せ。身動き一つで死ぬと思え!)
折角身を潜めたのに、そんなミスで見つかっては堪らない。
自分をもの言わぬ石だと思い込め。肉越しで聞こえてくる外の音に、ひたすらに耳を傾けろ。
「グルル!?」
肉越しで聞こえてくる鳴き声が、ザイロスが困惑している事を教えてくれる。
地面から伝わる振動が、ザイロスが動いてる事を教えてくれる。
探している。俺の事を。五感の全てをもってして、奴は霞の如く消えた俺を探している。
(………)
いったい、どれ程の時間が経ったのか。
俺が気配を殺し続け、ザイロスは気配を探して続ける。
永遠にも感じる時間の中、やがてザイロスは動くのを止め、
「アオォォォンッッッ!!!」
一度大きく咆哮してから、ゆっくりと何処かへ歩いていった。
(………)
…………。
(…………)。
………………。
(………はぁぁぁっっ!!!)
ザイロスの気配が消えて、更に少し時間が経った後、俺は漸く心の中で大きなため息を付いた。
まだ完全に安全かは分からないので死体からは出ないが、それでも八割がたの危機は脱したと考えて良いだろう。
(あー、マジでビビった)
はっきり言って、何時見つかるかと生きた心地がしなかった。
(でも、幾ら何百年と行きたい狼でも、流石に死体の中に隠れたとは思わなかったか)
透過の状態を利用し、猪の死体の内部に潜む。
突拍子も無い策だったし、賭けの部分も相当にあったが、成功して良かった。
(物体の内側という認識の死角に、血の匂いによる体臭のカモフラージュ。透過によってもたらされた困惑。色々な要素が重なって、ナントカって感じだな)
他にも猪の身体の大きさ等、結構な要素が俺に味方してくれた。
これらが無ければ詰んでいた。最終手段であるエニグマを使う事になっただろう。
(それは出来れば避けたかったからなぁ)
使ったところでどう転ぶか分からないし、相当な確率で連発する羽目になるからな。
バットステータス込みとなると、多用するのは控えたい。
(……とは言え、使わないと生きていけねえんだよなぁ)
エニグマは今のところ俺の唯一の武器で、何度も命を救われてもいる。
怖いと言って嫌煙するのも、同じく控えないといけない。
(せめて、敵にだけバットステータスとかだったらなぁ)
そうなれば、使い易さがグッと上がるのだが……。
(………いや。今はそんな事で悩むべきじゃないな)
折角危機を脱したのだから、今は素直に喜ぼうじゃないか。
ウジウジと栓のない事を悩んでは、気が滅入るという物だ。
(………ああ、その前にあれをやっとかないとな)
助かった事を喜ぶよりも、先にやっておくべき事があった。
(助けてくれて、ありがとう)
俺を色々な意味で救ってくれた、赤突猪の冥福を祈らなければ。
(お前を尊敬する)
俺は畏敬の念を込めて、猪に手を合わせたのだった。
(……そう言えば、最後のザイロスの咆哮)
何か、凄く嬉しそうだった気がするな。
……考えるのは止めておこう。それより、猪の肉を少し拝借。
(俺の命の他にも、胃袋まで助けてくれるとか。猪さんマジイケメン)
現実問題、ランダム系の魔法って使いたいですかね?
作者は嬉々として使いそう。
いや、命が掛かってる状況なら、主人公の反応の方が正しいんだろうけど。






