デスレースはお好きですか?
久しぶりに投稿。
書き留めはこれで尽きました。
「イィィィィヤァァァァァ!!」
「ブフォォォォォ!!!」
現在、全力で猪から逃走中。
「ああっ、何であんな当たり前の事に気付かなかったのかな!? 少し考えたら分かりそうな物なのに俺の馬鹿!」
過去を嘆いても仕方ない。けど言わせて!
「相手の攻撃がすり抜けるんだったら、俺の攻撃だってすり抜けるじゃんかよぉぉぉ!!」
「ブフォォォ!!」
「うわぁぁぁ!?」
嘆きの叫びを上げていると、またもや猪の突進が俺に直撃。
「もう怖えぇぇ!!」
そのまま俺の身体をすり抜けた。
「ブフォォォ!!!」
猪は突進が一向に当たらない事に苛立ち、遮二無二に突っ込んでくる。
「うわぁぁぁ!!?」
マジ怖え! 当たらなくても迫力がヤベェ!
「ああぁぁぁ! もう何なんだよ本当! 柄にもないような決意固めて挑んだ結果がコレか!? キャラじゃない事やった報いか!?」
良いじゃん少しぐらいカッコ付けても! 異世界来たんだから心機一転しても良いじゃん!
なのに不発とか凄え恥ずかしいし、それでリアル鬼ごっこ擬きとか理不尽過ぎるだろ!
「ブフォォォ!!」
「つーかそろそろ諦めろよ! しつこいこの猪!」
無駄だって分かってんだろうに、何でずっと追ってくるかなぁ!? 何なんだよコイツ!?
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赤突猪
主に森や山岳地帯など、自然豊かな場所に生息する。
とても気性が荒く、執念深い。雑食。
一度標的と定めた獲物は、血塗れになるまで追い掛け回し、自慢の突進で轢き殺すまで何時までも追い掛け回す。
付着した獲物の血液によって赤く変色するする特殊な表皮を持っており、体色が鮮やかで深い赤色な個体ほど強く、そして長く生きているとされる。
猪系の『王種』である、赫猪王グレンも赤突猪である。
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勝手に現われたウィンドウにより、赤突猪の特徴を把握した。
轢き殺すまで追い掛け回されるとか知りたくなかったんですけど。
「つーかまた物騒な名前も出てるし! 赫猪王グレンって何だ!? 王種って何だよ!?」
その叫びに応えるかのように、またもやウィンドウが出現する。
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赫猪王 グレン
世界有数の危険地帯である『虚の樹海』の主。赤突猪の中では最古の個体と言われており、猪系の『王種』。
その体色は世界で最も深く鮮やかな紅とされ、古くから多くの権力者が求めたとされる。
しかし、グレンの強さは凄まじく、手を出した者の周囲を巻き込んで返り討ちにした。
一撃の威力だけなら『王種』の中でも最高と言われており、一度の突進で五つの都市を破壊し、7日で三つの国を滅ぼしたという逸話も存在する。
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王種
レベルの上昇、年齢、突然変異などの理由から種の系統樹の頂点に達した存在。
王種は全生命の中で最も強靭な『個』であり、その強さは災害そのもの。
しかし、王種の殆どは人が近寄らない危険地帯の主として君臨しておる為、余計な手出しさえしなければ基本的には無害。
しかし、無害とされる王種も報復においては苛烈を極める為、被害の大きさから正当な理由なくしての手出しは国際的に禁止されている。
現状で存在が確認されている王種は14種。
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「こんなんばっかかこの世界!!」
何でそんなヤバそうな奴らがワンサカいんだよ!! いくら異世界でも危険過ぎだよ地球と全然違うじゃねーか!!
だってアレだぜ!? 幾つもの国を壊滅させるような、具体的にはザイロスと同レベルの奴が14体もいんだろ!? 下手したらこの世界直ぐにでも滅びるぞ!?
「つーか、そんな希少種と遭遇するとか俺どんだけ運悪いんだよ!?」
ザイロスって、世界で14体しかいないとされている存在の一角って事だろ!? 会いたくなかったよそんな有名人(狼)!
「ブフォォォ!!」
「そしてお前はまだ追い掛けてくんのか!?」
流石に慣れてきた赤突猪にツッコミを入れつつ、内心で焦る。
(ヤバいヤバいヤバい! もしウィンドウが事実なら、コイツはずっと追い掛けてくるって事だ。今はまだ透過と軽功の効果で何とかなってるけど、軽功が切れたら逃げられなくなるし、透過が切れたら死ぬ! それまでに何とかしないと!)
剛力無双は既に切れた。いや、透過の効果で特に役に立ってないから、有っても無くても別に関係無いのだけども。
けれど他の二つは違う。透過と軽功は現状の命綱だ。
(どうするどうするどうする!? 透過の効果で物理攻撃は意味が無い。もし可能性があるとすれば魔法か)
だが、それも無理だ。
魔法での遠距離攻撃なら確かに望みはあるが、そもそも俺はエニグマ以外の魔法は使えない
(ピンチになって魔法使いに覚醒、そんなご都合主義なんてある訳……)
いや、ご都合主義が無いという訳では無い。
俺にはある意味でご都合主義の最たる物と言えるエニグマがある。
だが、
(ここぞという時に使いたく無い!)
効果が効果なので、とんでもない博打となるのだ。
命が掛かっているような場面で使って良い魔法では絶対にない。
(けど、これっきゃ最早手が無いのも事実)
とんでもない博打となるが、結果次第では一発逆転すらも可能。
そして俺にはエニグマ以外に打つ手無し。
ならば、腹を括るしかない。
(こっち来て何回腹を括ってんだって話なんだけど……)
これはもうイザナミの呪いだと思って諦めよう。
さて、鬼が出るか蛇が出るか。
「エニグマ!」
【状態・知識習得 (生活魔法):永続】
魔法で火種や飲み水を出す知識を得た。
「欲しかった魔法だけど微妙に違う!!」
嬉しいけども! 飲み水を出せるとか凄く嬉しいけども!!
「今はそれどころじゃない!!」
この状況で火種や飲み水を出せるようになっても意味無えから!
餓死や脱水症状よりも物理的に死にそうなんだけど!?
「エニグマ!」
【状態・疲労回復大:1分】
体力が凄い勢いで回復する。
「当たり効果キタコレ!」
逃げ回って失った体力がどんどん回復してる! 走ってても回復するとか凄くね!?
「けど1分は少な過ぎんだろぉぉぉぉ!!!」
短い! 良い効果なのに持続時間が凄く短い!
ほら! もう体力が回復する感覚無くなった!
「いやまあ、お陰でまだ走れるんだから文句は……やっぱあるわ」
確かに体力は回復した。それも充分に。けど言わせろ。
短えんだよ。
「エニグマ!」
【状態・疲労:3分】
凄く疲れた。
「……ぢょ、こ、…これ……マジ、か…」
凄まじい倦怠感が襲ってきて、俺はその場に膝を着いた。
赤突猪がチャンスとばかりに突進してくるが、恐怖を感じる余裕すら無かった。
「…こん、の………馬鹿…魔法、が……!!!」
運命に絶望した者の、怨嗟の叫びが森へと響く。
何でだよ! 回復した途端に疲労困憊とか悲し過ぎんだろ! 俺の喜びを返せ!
「……やば…立て、ね」
「ブフォォォ!!」
直ぐに動く事は不可能だと判断した俺は、その場で倒れ込んで休息を図る事にした。
赤突猪が突進を繰り返しているが、今はそんな事は気にならない。
「……とは言え、打てる、手は、打っとかね、と」
透過や軽功に制限時間がある状態で、何もせずにぶっ倒れているのはヨロシクない。
だからこそ、今出来る事をやろうと思う。
「……これも賭けだけどな」
異世界に来てから何度目か分からないが、例に違わず腹を括る。
「エニグマ!」
今日何度目かのエニグマが発動し、魔力が抜ける感覚と共に
「ブフォ?」
赤突猪の身体が僅かに発光する。
そう。今回のエニグマの対象は、俺では無く赤突猪である。
別に初めてのデバフ効果にビビって、対象を赤突猪に変えた訳ではない。ないったらない。
これは現状を踏まえた上での実験だ。
普通の状態なら敵を強化しかねないエニグマは使えないが、現在の俺は無敵状態。
大抵の結果はやり過ごせる筈なので、今の内にエニグマの検証を行いたかったのだ。
何度も言うが、ビビった訳ではない。
「さあ、どうなる…?」
【状態・興奮:200分】
赤突猪が興奮してより獰猛になった。
「オォォォォ!!!」
「……うわぁ」
迫力の増した状態で雄叫びを上げる赤突猪を見て、早速心が折れそうになる。
と言うか、透過があって本当に良かった。
突進の所為で周囲の木はへし折れており、停止や方向転換のお陰で地面は抉れている。マジでどんな危険地帯だよ。
こんな場所で寝てられるのだから、透過って凄い。
「……安全も確認出来たし、もう一回」
今の状態なら大丈夫そうなので、検証を続けよう。
デバフが出れば嬉しいんだけど。……興奮もデバフか?
「エニグマ!」
【状態・敏捷中上昇:102分】
猪のスピードが上がった。
「めっさ怖いんですけど!?」
当たらないと分かっていても、2メートル級の猪が弾丸みたいな速度で突進してくるのは怖いです。
そして持続時間が102分とかどゆこと!? そんな中途半端な時間もあんの!?
「エニグマ!」
【状態・毒:10秒】
赤突猪が足を止め、その場で苦しみ始める。
「ブォォ……ブオ?」
そして即治った。
「だから短えんだよぉぉ!!」
折角のガチ物のバットステータスが何で即座に治んだよ! 10秒って何だ10秒って!! 激辛系の食材でも10秒以上は苦しむぞ!?
「エニグマぁ!!」
【状態・状態異常完全無効:150分】
赤突猪は、全ての状態異常が効かなくなった。
「何でだあぁぁぁ!!!」
これは俺に来るべき効果だろう! 何で猪に来ちゃうの!? 俺だってこんな純粋に便利な効果は出てないのに!
「てか、これじゃあもう検証出来ないんじゃ……」
嫌な予想が頭をよぎり、恐るおそる試してみる。
「エニグマ」
【無効化されました】
「やっぱりかぁぁぁ!!」
クソゥ! 何なんだよ本当!
折角の貴重な機会だと言うのに、検証すら出来ないのか。
と言うか、これマジでヤバくね? なんだかんだで猪をバッドステータスで始末しようと思ってたのに、状態異常完全無効の持続時間を考えるとそれも出来んし……。
「……また始まってしまうのか」
こうなった以上、またあのデスレースを行わないといけない。
「……もうやだこの世界」
猪が俺の身体を何度も通り抜ける中、シクシクと涙を流しながら思う。
「ブフォォォ!!!」
「グルァァァァァァ!!!」
何で俺はこんな散々な目に遭っているのだろう?
てか待て。何か多くね?
「グラァァァ!!」
「「っ!!?」」
気付いた時には遅かった。
その雄叫びに、身動きが殆ど取れない俺も、興奮状態だった赤突猪も硬直した。
そして雄叫びの主の姿を確認し、俺と猪は全身から冷や汗を流す。
(ヤバイ…ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイッ!!!)
忘れもしない、その姿。
獣や魔物とは一線を画す、存在としての重み。
大地を砕き、空さえも駆けるような、強靭な四肢。
世界さえも引き裂き穿つであろう、鋭い爪牙。
深淵へと至った賢者を想わせる、叡智の宿る瞳。
(コイツは、マジでヤバイっ!!!)
理から逸脱した化物。俺が遭遇してきた存在でも、最上位に位置するであろう狼の王。
「怪狼王ザイロス……!!」
これは、マジで詰んだ。
頑張れ主人公






