信用出来ません
誤字脱字の可能性大です。
既に書き貯めが底をつきそうに......
夜が明けた。
「………生きてる。俺、まだ生きてるよ……」
生きる事の素晴らしさを感じながら、むくりと枝から身を起こす。
我ながらよく木の枝から落ちなかったと思う。異世界転移の翌日に、目が覚めたら冥界でしたなんて笑えない。
「ズーに感謝だな」
アイツの溢れる野生に付き合った事により培った、無駄に高度なサバイバル技術が、よもやこんな事で役に立とうとは。
朝露を集める方法なんて、この状況ではマジで助かる。飲み水が確保出来るのは大きい。
「とは言え、これだと量の確保がな……」
なんとか一日を過ごしたが、問題は山積みだ。
食料は昨日の熊の残りのみで、長期保存は不可能。飲み水は極僅かで、朝方にしか飲めない。これだけでもサバイバルとして致命的だが、周囲一帯には抵抗が無意味な外敵が存在。
どう考えても詰んでいる。
「数少ない救いは、状態異常とかの心配が少ない事か。後は鑑定眼。運命の輪は知らんけど」
世界樹の葉や樹液は準万能薬みたいな物だし、鑑定眼は食料調達などで役に立つ。運に関しては本当に期待してないけど。
絶望的な状況だが、これだけあればなんとかやっていけるだろう。
「……無理だな」
ちょっと今後のサバイバルを脳内シュミレートしてみたけど、生存率0から0.01%に変わったぐらいだと思う。
雀の涙にも満たない変化だとか泣けてくる。
「………やっぱりこれ次第か」
謎魔法。この魔法が恐らく、いや確実に俺の人生の鍵となるだろう。
運が悪いのに運任せとか、本気で号泣しそうなんだけど。
「……腹括るか」
不安要素しかない魔法だが、この状況では使わない訳にいかない。ならば、ウジウジしててもしょうがない。
「……南無三。エニグマ!」
身体の中から魔力が抜け、僅かに発光したのを確認する。
【状態・成長率中上昇:300分】
「……これはアレか? 字面からして成長ボーナス?」
ゲームなどでお馴染みの、経験値が多く獲得出来るブースト状態らしい。
効果としては当たりの部類、というかかなり良いと思う。
………良いと思うんだけど。
「そもそも経験値を稼ぐ手段が無い……」
レベル40の化物熊とかいる森だぜ? 世界有数の危険地帯らしいんだぜ? そんな場所でレベル1の高校生に如何しろと? 俺ゴブリンやスライムにすらやられる自信あるんだけど……。
「つーかこれじゃあ出歩けねえじゃん! もっと他のないの!?」
嬉しいけれど、それ以前の問題が残っているのでもう一回掛け直す事に。
「エニグマ!」
【状態・成長率大上昇:300分】
「だから経験値を稼げねえんだよぉぉぉぉ!!」
嫌がらせかこの能力! 今はいらん言ってんのに何でコレ!?
クソッ、もう一回だ!
「エニグマ!!」
【状態・茶髪:7日】
髪が茶色になった。
「だからどうしたぁぁぁぁ!!」
いるかこんなイメチェン! 異世界来てまで髪染める意味無えんだよ! 染めたとしても人居ねえんだぞ誰に見せんだよ!? そして持続時間が7日とか地味に長い!
「エニグマ!!!」
【状態・視力強化:永続】
目が良くなった。
「地味!!」
いや嬉しいけども! 確かにこの状況で視力が上がるのは助かるけども! それでも微妙過ぎない!? そして持続時間に永続なんてあんの!?
「エニグマ!!」
【状態・技能習得 (ブレイクダンス):永続】
ブレイクダンスが出来るようになった。
「だから意味無えんだよぉぉぉぉ!!!」
こんな秘境でブレイクダンスして何になる!? ただひたすらに悲しいわ! そしてまた持続時間永続か!
「何でこんな意味不明な状態ばっかなるんだよ!? もうバットステータスでも良いから普通の来いや!」
本当に効果がランダムだって事が分かったのは、今後を考えるととても有用だろう。
だが、今はそんな事どうでも良いぐらいにあったまきた!
「エニグマエニグマエニグマぁぁぁ!!」
慎重さとかを投げ捨ててのエニグマ三連!
さあ、効果は!?
【状態・剛力無双:100分】
【状態・透過:200分】
【状態・軽功:150分】
まともそうなのキタコレ!
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状態・剛力無双
怪力を発揮出来る。
その効果は凄まじく、片手で大岩を持ち上げ、拳で大地が砕ける程。
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状態・透過
生物、無生物、魔法であろうと関係無く、接触する事が出来なくなる。
ただし地面には効果が無い。
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状態・軽功
身体が羽のように軽くなると同時に、跳躍力や敏捷性が大幅に上昇する。
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予想以上に凄い効果だった。
「あれコレ凄くね!? これならモンスター倒せんじゃね!?」
怪力、攻撃無効、敏捷強化。この三つの強化効果ならイケるかもしれない。
そしてこの三つがあれば、さっきまで死に効果だった成長ブーストも活かせるのでは?
「ここでレベルを上げておけば、今後の生活が楽になるかもしれない!」
闇の中で見つけた一筋の光。この機を逃した場合、恐らく命は無い。
「いざ行かん! 魔物狩り」
そう決意を固め、俺は森の中を駆け出した。
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鬱蒼と茂る森の中。俺は必死で森の中を走っていた。
「……魔物がいない!」
決意を固めて駆け出したのは良いのだが、標的となる魔物がいないと言う事実。
戦闘で必要となる剛力無双の持続時間は100分。つまり制限時間は1時間40分という事になる。
そして現在、既に魔物を探して10分が経過していた。
「……いや、分かってはいたさ。これは現実なんだ。こんなだだっ広い森の中で、生き物と遭遇する確率なんてたかが知れてる」
それに俺は世界樹からそんなに離れられない。特に今は透過の影響で、木に目印を付ける事も出来ないから余計に離れられない。
そんな狭い範囲の中で、魔物とエンカウントする確率は低いだろう。
もういっそ大声でも出して騒いでしまおうかとも思うが、流石にそれは出来ない。
「ザイロスにあったら生き残る自信ねぇし」
確かに騒げば魔物とエンカウントする確率は高まるだろうが、同時にあの化物狼とのエンカウント率も高まってしまう。
いくら透過状態とはいえ、あの狼なら効果を無視してきても可笑しくない。効果を無視出来なくても、持続時間が終わった瞬間に殺されるだろう。
生憎とだが、もし見つかってしまった場合、透過の効果が続く間に奴から逃げ切れる自信はこれっぽっちも無い。
「この透過、すり抜けるけど姿や気配が消える訳じゃないんだよなぁ」
どういう原理かは知らないが、物体はすり抜けるのに光はすり抜けないらしく、俺の姿は丸見えとなっている。
エニグマ的には、透過と透明は別物らしい。
「……はぁぁぁ。ちょっと休憩……」
走り回って疲れたので、腰を下ろして少し休憩する事に。
当たり前だが、軽功によって身軽になったとはいえ、スタミナ切れを起こさないという訳では無い。
まあ、障害物を躱す必要も無く、身体も羽のように軽いので、かなりの距離を走れてはいるのだけれど。
それでも疲れる物は疲れるのだ。
「1分くらいしたら、また探さないと」
気分転換も兼ねて、座ったまま辺りを見回す。
警戒していた事で暗く感じていた森だが、透過によって安全となった今では景色を楽しむ余裕がある。
埋め尽くすような木々の緑は自然が豊かな証拠であるし、燃え盛るような赤い身体は躍動感に溢れている。
「……うぇいと。躍動感溢れる赤い身体?」
「ブフゥゥ」
「……」
何時の間にか、2メートルオーバーの猪がそこにいた。
「ブ?」
あ、こっちに気付いた。
暫く見つめ合う俺と赤猪。
「……うぇいと」
「ブフォォォ!!」
「ですよねー!!」
ロケットスタートを決めてきた赤猪を、転がるようにしながらも全力で回避。
軽功によって敏捷性が上昇していたから何とか躱せたが、それでも紙一重のギリギリ回避だった。
「………って、良く考えれば躱す必要無いじゃん」
ワンテンポ遅れて透過の効果を思い出したが、再び俺の方へと頭を向けた猪を見て即座にその考えを捨てた。
「無理。迫力あり過ぎ。アレ躱さないとか恐怖で心折れるわ」
猪から感じるプレッシャーの所為で、必要無いと分かっていても身体が勝手に動いてしまう。
ザイロスが発するプレッシャーの足元にも及ばないが、それでも昨日の死腕大熊ぐらいのプレッシャーは感じる。
「鑑定」
敵を知らねば百戦どころか一線すら危うい俺は、赤猪の情報を見る。
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赤突猪 レベル42
アクティブスキル
・突進
・粉砕
・威圧
・加速
パッシブスキル
・嗅覚中強化
・硬化
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「こんなんばっかか!」
「ブフォォ!」
「ゴメンなさい!」
敵の強さと理不尽にツッコミを入れたら、猪様の不況を買ってしまった。
「いや、冗談言ってる場合じゃ無いわ。マジでコイツ何とかしないと」
恐怖で膝が震えるのを堪えながら、赤突猪に向けて拳を構える。
透過があるからこそギリギリで対峙出来ているが、無かったら絶対逃げ出してる。そして背中から突撃されてバッドエンド。
今更ながら、魔物と戦う恐怖を感じた。戦う事を甘く見ていた。
「……いや、ネガティヴな事を考えるな。大丈夫。透過も軽功も剛力無双もまだまだ使える。勝てるかは兎も角、負ける要素は……無い」
理屈をもって己を鼓舞し、赤突猪を睨み付ける。
無謀だ。不遜だ。敵は俺よりも遥かに格上。特殊状態だろうと、普通なら挑もうなんて思わない。
「蛮勇、上等だよ…!」
絶対強者に喧嘩を売るのだ。蛮勇なのは百も承知。
「だけど、それでも……!」
やるっきゃ無いのだ。
こんな場所で生き残るには、逃げてばっかじゃ駄目なのだ。
逃げる事が駄目とは思わない。だけど、出来る時にやらないと。逃げてばっかで如何にかなる程、この現実は甘くない。
「……やっぱ怖えや……」
身が竦む。だけど恥じるな。当然の事だと受け止めろ。
恐怖に呑まれ、その感覚を身体に刻め。その上で一歩踏み出し、自分の中の勇気を示せ!
膝が震える。だからどうした。心が折れそう。そんな暇は無い。死ぬかもしれない。何を今更!
「ここは引くところじゃない……!」
俺は一人だ。キクリンも、ズーも、マモルもいない。ああ、寂しいさ! 花ちゃんも、マタタビちゃんも、雪ちゃんも、弥生ちゃんも、イザナミ様もいない。心細いさ!
だけどな、そんなんでヘコたれてる暇はねえんだよ! 生き残る事を諦めれば、親友たちに会えないだろう! 生きる事を諦めて死んだら、冥界の皆に顔向けなんて出来やしない!
「……さあ、掛かってこいやぁ!」
「ブフォォォ!!!」
張り上げた声に呼応するように、赤突猪も雄叫びを上げ突っ込んでくる。
「ッチィ!」
やはり速い! やはり恐ろしい!
咄嗟に身を捻り、赤突猪の射線から身を退かす。
だが、
「躱しきれない……!」
やはり格上。そのスピードは凄まじく、反応するのがやっとだった。
猪の突進が、俺の身体を掠る。
「ブフォォォ!」
赤突猪が勝利の雄叫びを上げる。
当然だ。俺の貧弱な身体では、あの突進が掠っただけでも致命傷。即死もあり得るのだから。
だが、それも掠ったらの話。
「……っぶねぇぇぇ! そんで分かっててもメッチャ怖えぇぇ!」
迫力に負けてつい躱そうとしてしまうが、そもそも俺は透過によって攻撃を躱す必要は無いのだ。
だからこそ、赤突猪の攻撃は一切効いてない。
「ブモッ!?」
赤突猪が驚きの鳴き声を上げる。
倒したと思った獲物がピンピンしてるのだから無理もない。
死んだと思った敵が何事も無く立っているのだがら、驚きで固まっても無理はない。
だが、それは致命的な隙だ。
「隙ありっ!」
そんなチャンスを、俺は見逃さない。見逃せない。
上昇した敏捷性を持って赤突猪へと接近し、首めがけて拳を振るう。
武道をやってる訳でも無いので、決して堂に入ったとは言えない拳。
だが、剛力無双によって強化されたこの拳は、巨石を穿ち、大地を砕く力を持つ!
「いっけぇぇぇぇ!!!」
「ブフォォォ!!!」
そして、無双の怪力の宿る拳が、赤突猪の首へと叩き込まれた。
そろそろ不定期更新になります