-旅はこれから-
ボロいアパートの小さな窓から僕が寝ているベットへと暑い日差しが差し込んでくる。
「んん…」
頭が痛い。
昨日少し飲みすぎたか。
森野が好きな人に振られたと騒いでいたのに付き合って聞いてやっていたんだった。
そして、僕は何時間寝ていたのだろうか
…
というか、今何時だ?
近くに置いてある時計には8:40と表示されていた。
「やばい!!」
今日は会社の出張らしきもので、少し離れた島へ行かないとならないんだった。
正直とても面倒だからサボってもいいか…とか思っていたが、どうもそう簡単には世の中うまくいかないらしい。
携帯が鳴った。
そこには部長と表示されている。
嫌々その電話に出ることにした。
そこから聞こえてきたのは…
「おい、岸田ァ!!!!今何時だと思ってるんだ!!」
やはり、部長の怒鳴り声だった。
あぁ…耳が痛い。
まぁ、悪いのは僕なんだけども…
「すみません。今すぐ向かいます」
僕は携帯を肩と耳に挟んだ状態で準備をしていた。
二日酔いのせいで頭が痛いのに耳と首まで痛くなってきた…最悪だ。
とりあえず、電話とともに準備も終わったので集合場所へダッシュで行くことにしよう。
早速部屋を出るとここのアパートの大家さんにつかまった。
「あっらー、そんな乱暴にドア閉めたら壊れちゃうじゃない!!
もっと丁寧に扱ってほしいものだわぁ…」
確かに僕は急いでいた勢いで部屋のドアは乱暴に閉めてしまったかもしれない。
けれど、だからと言って今絡んでこないでほしい。
急いでいるんだ!!察してくれよ、大家さん。
僕は大家さんに悪いと思いながら軽く会釈をしてスルーした。
階段を駆け下りてダッシュで集合場所へ向かった。
この村は無駄に猫がいる。
猫は嫌いではない…いや、むしろ好きだ。
が、
邪魔だ。すごく邪魔だ。
僕が走っているにもかかわらず足にまとわりついて離れない、
この村の猫は人に懐き過ぎなんだよ!!
そんなことを考えながら走っていたらもう集合場所に到着した。
僕は自分の目を疑った。
何で昨日僕より飲んでた森野が集合時間に間に合ってんだよ!
そしてもう一つ
何で「森野が好きだった人」兼「僕の幼馴染」の高嶺がいるんだ?
高嶺は高校時代、
入部していた陸上部のエースであり学校の中のマドンナと言われるような奴だったが、ある陸上の試合に出たときに右足の靭帯を損傷し医者には治らないといわれそれから車椅子になってしまい、今同じ会社に勤めているが車椅子で不便だからと言って出張らしきものには一切来ていなかった。
そんな奴が今何でここにいるんだ?
そんなことを考えていたら部長の恐ろしい顔が視界に入った。
まず、部長に怒鳴られる前に謝っておこう。
「遅れてすみませんでした。
今後一切このようなことはいないように努力します」
今後一切寝坊しないとは言い切れないので軽く努力しますと保険をかけといた。
僕のこのような一切気持ちのこもっていない言葉を聞き流し部長はムスッとした顔で
「行くぞ」
ひとこと言って先に出張先へ向かう船に乗り込んでしまった。
それに続いて高嶺も船へ乗り込もうとするが車椅子だからか上手く乗り込めないらしい、車いすのタイヤが船の入り口に引っかかっている。
僕は一瞬助けてやろうかと思ったが、
森野が彼女のところまで走って手伝ってやったから僕は手伝わなくていいし、森野と高嶺をこんな小さな出来事でくっつくかは知らないが少しでも森野のいいところを彼女にアピールできたかもしれないし、高嶺から僕は好かれていないらしいからむやみに近づかなくていいという、一石二鳥ならぬ一石三鳥ということになる。
その光景を見て僕は森野が凄いなと思った。
昨日振られたってのに何もなかったかのように話しかけて手助けができるのだから。
「おーい、岸田? 早く乗らないとおいて行かれるよー!!
乗らないのー?」
「あ、あぁ、乗る」
いろいろ考えているとまた部長に怒鳴られる。
それはごめんだ。
船に乗り込んだものの二日酔いもあるのか酔った。
プラスさっきから耳元で森野のマシンガントークがうるさい。
そしてなぜか後ろからすごく視線を感じるのだが…恐い。
ものすごく後ろを向きたくない。
が、視線が気になり恐る恐る僕は後ろを向いてしまった。
振り向いた途端
案の定、後ろにいた高嶺と目が合ってしまった。
高嶺は高校時代、マドンナ扱いされていたほどはあり整った顔に、目つきはあまり良いとは言えないがその魅力的な視線に引き込まれてしまった。
「何?文句でもあんの?」
高嶺が突然口を開いた…と、思えばなんだその口の利き方は
なかなか失礼じゃないか。
「いや、別になんもないけど…」
後ろからすごい視線を感じたなんて言ったら、
「気色悪い」
とでも言われるだけだろう。
本当のことを言っただけなのにそんなことを言われるのはごめんだ。
「おい、着いたぞー!」
森野が俺と高嶺の気まずい沈黙の時間を解くように言った。
部長は何も言わずにもう船から降りて白衣に身をまとった怪しい男と話をしていた。
僕たちは部長の後に続き高嶺、森野、僕の順番で船を降りたのだった。
「わぁ…」
「……」
島についての森野の第一声は「わぁ…」
そして高嶺は無言。
あまりの何もなさに驚いたのだろう。
僕は何度か昔両親に連れてこられていたことがあったからこの殺風景な景色は何度か見ていて見慣れていた。
「部長、こんなところで何するんすかぁー?」
さすが森野、誰も勇気がなくて聞けなかったことをさらっと聞いた。
「……」
部長は無言か。
いや、無視に近いか。
「みなさーん、黙って付いて来てくださーい。
今からワタシと部長さんとの研究室へ招待しますねぇ」
突然、白衣の怪しい男が口を開いた。
「え、まさかの…オネェ?
てか、あのおっさんと部長の研究室とか意味深…こわっ!」
森野が小声で僕に言った。
僕もそれは思ったが、
とりあえずスルーさせてもらって白衣の男…オカマ?に付いて行くことにした。
「ここでーす」
白衣のオカマが、僕が住んでいるアパート並み…以上にぼろくて怪しい建物の前に立った。
部長はさっさとその怪しい建物も中に入って行ってしまった。
それに続いて僕たちも入ることにした。
建物の中は薄暗く、うっすらガスの香りがする。
そして僕らをなんだかよくわからない
ピンク色で保健室にあるようなカーテンの前まで案内した。
「今日はこの中にある機械に乗り込んでもらうためにお前らを呼んだ」
と言って、ピンクのカーテンを開けた。
部長がいきなり訳の分からないことを言い出した。
もう、歳なのは知っていたがここまでだったとは思わなかった。
僕も、森野も、さすがの高嶺も…いや高嶺はこんな時も冷静だったが、
僕と森野は目が点になっていた。
こんな見るからに怪しくて、若干「ハウ○の動くなんちゃら」みたいな見た目の機械に乗り込めと…
「これも仕事の一環だ。じゃんけんで負けた二人は乗れ。部長命令だ」
「は?」「は?」「ハァ?!」
三人とも息ピッタリで驚きの声を上げた。
「はーい!それじゃあいっくよぉーん?」
白衣のオカマの声が建物内に響いた。
「え、ちょっ…「じゃーんけーん」
オカマは森野の声を無視してじゃんけんを始めた。
もうここまで来たら止められないと高嶺はあきらめたのか黙って手を出している。
「ぽんっ!!」
グー
チョキ
チョキ
森野は勝った。
そして、僕と高嶺は負けた。
森野は僕と高嶺を見て自分は乗らなくて済んだと喜んでもいいのかわからなくてひどい顔をしている。
僕と高嶺は顔を見合わせ溜息をついた。
「高嶺、岸田、行って来い!!」
僕と高嶺は話す気力さえ残ってなく、この機械は何なのかも聞かずに、森野に見守られ、部長とオカマに背中を押されるがままにその機械へと乗り込んだのだった。
この先何が待ち受けているのかも知らずに…