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プロローグ
そこには彼女が座っていた。
彼女は放課後、それに教室の皆が去った後もひとりでいた。夕焼けに照らされた髪は美しく、ヒラヒラと靡いている。それはまるで藍いバラを見ているかのようなインパクトを受けた。
彼女は振り向く。そして俺を見た。
「……見る?」
そういって彼女は机の上にあった画用紙を両手に持って俺に見せてきた。そこに描かれていたのはクラスの皆がアニメに出たような絵だった。とてつもなく上手い。まるで絵の中に自分が引き込まれそうだ。しかもその絵の中には、俺らしき人物まで描かれている。しかしその絵には彼女自身が入っていなかった。
「お前はこの中に入らないのか?」
俺は少し辛い気持ちで伝えた。
「私は入らない。」
彼女は淡々と答えた。それは私は入りたくないというような気持ちが浮き出るような言い方だった。
そして、彼女は目に涙を浮かべながら言った。
「……私は、この中に入って良いのかなぁ…。」
彼女のか細い心から発せられた、精一杯の言葉だった。