嬉しい嗚咽はすぐそこに
書き込みが自動消去される7日目を待たずして5日目の朝に私はプリスさんの宿に戻ってきた
プリスさんと同じエルフや長寿種のキャラクターならば存在していると期待した私はひどく甘かったらしい
私に声を掛けてきたのは宿の食堂や酒場にいた冒険者だけで、私が求めるフレンド登録者は誰1人として姿さえ見ることはなかった
ギルドと軽く念ずるとA4ノート2枚分の画面が目の前に現れる
表示されているのはギルドメンバー数とギルドメンバーの最終ログアウト時間
この世界にきて何度も何度も見てきた変わることのない数字
ギルドメンバー数:18人 そして私を除くメンバー全員が10月19日の23時59分にログアウトしている
最後の時をみんなと迎えられず、今もこうしてこの世界にいる私は随分と異端だ
「たま」
プリスさんが呼んでいる
「お客さんだよ」
部屋のドアを開けるとプリスさんが1階を指差している。はて?
思考を切り替え言われるままに階段を下りていく
客と言われたが心当たりは全く無い
客だとしてもプリスさんが間に入ってなければ会おうともしなかった
そのプリスさんはというと何かを懐かしむような温かい笑みをずっと向けてくれていたのだが、それに私が気付くこともなくただゆっくりとした歩みで1階へと向かうのだった
精霊御伽草子:10月19日の23時59分にサービスが停止したMMORPG