お父さんとの馴れ初め? そんなこと聞かないでよぉ
え?
お父さんとの馴れ初め?
そんなこと聞かないでよぉ。
恥ずかしいんだから……。
え?
学校の課題なの?
えー、今ってそんなのあるの?
正直に言いなさい。
嘘でしょ?
……ほら、やっぱり。
で、本当は何なの?
言ってごらんなさい。
ふんふん。
なるほど。
つまり、友達のお父さんとお母さんがあまりにも大恋愛の末に結ばれていたから、自分のお母さんとお父さんはどうだったんだろう? って?
まったく。
しょうもないわね。
女の子って本当におませさんなんだから。
え?
お父さんは国一番の戦士なんだから、お母さんだって本当はすごい人なんじゃないの? って?
まぁ、それなりに戦闘は出来るけれど……だけど、お父さんと比べると流石にねえ。
はいいい!?
お母さんも強いならお父さんとの結婚は何となく納得できるけれど、絶妙にわかんない強さですって!?
あんた喧嘩売ってんの!?
お母さんは確かにお父さんには勝てないし、何ならお父さんの部下たちにも勝てないけど!
だけど!
それなりには強いのよ!?
そ・れ・な・り・には!
って言うか、この国の連中が皆おかしいのよ!
お母さんだって祖国では有数の暗殺者だったんだから!!
もう滅びちゃったけど!
それでもね!
祖国では私に勝てる人の方が少なかったんだから!
それぐらい強い暗殺者だったんだか――って、あっ。
今の無し!
忘れて!!
……忘れるわけないか。
あー、もう。仕方ない。
それじゃ、教えるよ。
お母さんとお父さんの馴れ初め。
って言っても、別に面白くもなんともないよ?
よーするに。
お父さんの国とお母さんの国は元々戦争をしていたのよ。
うん、戦争。
悪い事。
いや、今はもうお母さんの国自体がないからね。
より正しくはお母さんの仕えていた王家がなくなったと言うだけだけど。
うん。
話を戻すとね。
お父さんの国が圧倒的に強くってね。
特にお父さんがとんでもなく強いもんだから、お母さんの国の王様は「あいつさえ倒せば……」なんて考えていたのよ。
戦力で負けていたのは事実なんだけど、まぁ、実際には戦術はもちろん周辺への根回しでも負けていたからぶっちゃけ元々勝てるはずなかったんだけどね。
それなのにあの馬鹿野郎……講和の条件を少しでも良くしたいからって。
あ、ごめん。
なんでもない。
まぁ、とにかくね。
お母さんはお父さんを殺すように命令されたのよ。
お母さん、暗殺者だし。
こう、寝首をかけって。
え?
そりゃ、断りたかったわよ!
だって、お父さん滅茶苦茶強いから正攻法じゃ絶対勝てないし、かといって普段から隙もないし。
そんな人が率いているんだからそりゃ兵士達だってアホみたいにしっかりしているし、士気も高いし……。
だけど、断ったらお母さんが殺されちゃうからね。
誰にってあの馬鹿……もとい王様によ。
命令を聞かなきゃ殺すって言われたのよ。
え?
ただでさえ戦力で負けているのに、強いお母さんを殺しちゃうなんておかしいって?
そうそう。
まさにその通り。
だけど、もうあのバカもヤケクソだからね。
よしんばお父さんを殺せたとしても何も変わらないって分かっていたはずなのに、それでも無理矢理命令してきたわけよ。
ん?
ああ、違う違う。
お父さんに負けて結婚したんじゃないの。
残念だけど、戦いの末の友情だとか恋愛だとかないわよ。
あんたは知らないだろうけど、お父さんは本当に敵には容赦ないんだから。
じゃあ、どうしたのかって?
そりゃ、もう初手で土下座しながら事情を話したのよ。
もう泣きながら。
ちょっと!
そこで引かないでよ!
お母さんも必死だったんだから!
だって、命令無視すれば処刑だし、かといってお父さんと戦うなんて実質死刑だし!
なら、もう賭けるしかないじゃない!
お父さんが優しい事に!
だから引くなって言ってんでしょ!
情けなくない!
これはもうなんというかあれ!
生存のために全てを考え抜いたうえでの作戦だったんだから!
実際さ!
見てごらんなさいよ!
結果としてお母さんは生き残って!
あの馬鹿はお父さんに負けて滅びて!
今は幸せな一主婦として暮らせているんだから!
お母さんはどう見ても勝者でしょうが!!!
ほら!
疑うな!
はいいい?
お父さんが何でお母さんを好きになったかわかんないって!?
あんた喧嘩売ってんの!?
買うよ!
ほら、表に出なさ……あっ、あなた、おかえりなさい。
え?
やあねえ。
喧嘩なんかしてないわよ。
ただ、この子があんまりにも失礼なことを聞くもんだから肉体言語で……。
えっ?
何を聞かれたのかって?
えっと、それは……。
あっ、ちょっと聞かないでよ。
――え?
一目惚れ?
…。
……。
………。
まぁ、これであんたもわかったでしょ。
要するに惚れたもんが負けるのよ。
よって、お母さんの勝ち。
わかったら早くどっか行って。
これから大好きなお父さんとあんたのために美味しい晩御飯を作らなきゃいけないんだから――。




