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14.使命

 左沢の支えがなくなり、茂水は地面に倒れた。絶え絶えの呼吸の中、静かにこう告げる。

「華陽ちゃん――逃げろ」

 華陽は立ち上がった。ポケットの中の石を、存在を確かめるように握り締める。

「茂水さん、ありがとうございます」

目前に見える洞穴を見つめる。あの場所まで、天狗を引き連れなければならない。

「封印石は、必ず守ります」

再び、天狗との一騎打ちが始まった。

 団員たちの気配がないためか、左沢は完全に華陽だけに意識を割いていた。

 洞穴まで徐々に近づく。華陽が先に入り、何も疑わず左沢も続く。まさか誘導されているとは思っていないだろう。むしろ、出口のない場所に追い込んだと思うかもしれない。

 逆光で、華陽は目が眩みそうになった。天狗はチャンスとばかりに笑みを浮かべる。

 ちょうどそのとき、入口のほうから轟音が聞こえ、地面が大きく振動した。外から差していた光が消え、暗闇の中に閉じ込められた。


 手探りでスマホを探し、画面をつける。中の様子がようやく判明した。十二畳間ぐらいの広さの、高さ二メートル程度の空間だった。

「ありがとうございます」

妖化を解いていた左沢が、礼を言う。

 華陽には、何が起きたのかわからなかった。地震があったのか調べようにも、圏外でインターネットは通じない。とはいえ、事態を察した団員が助けに来てくれるだろう――そう思ったのも束の間、

「血盟士団というのは、とことん残酷な組織ですね」

左沢が嘲笑交じりに言った。

「どういうことですか?」

華陽は胸騒ぎがした。確かに、総叩きにするという計画にしては、この一帯でいっさいの気配がなかったのは不思議なことではあったが。

「危険な人妖たちを閉じ込めることに成功したようです」

 最初、何を言っているのか理解できなかった。つまり、これは事故ではなく、血盟士団が意図的に仕組んだ状態ということになる。故に、助けは来ない。

「君が何を教えられていたかは知りませんが、騙されていたようですね。その封印石も偽物だったと。まぁ、団からしたら、二人同時に閉じ込めたほうが、成功率も、今後のリスク回避の意味でも、合理的だとは思いますが……とはいえ、未成年にしていい仕打ちではないですね」

完全に戦闘モードから抜けている左沢が、手を背中で組み、華陽のほうを向いた。

「当然、納得はできないでしょう。どうです? 協力して脱出しませんか? 私だって、完成したAHT細胞が日の目を見る瞬間に立ち会いたいので」

 空いた掌が差し出される。華陽は冷たい目でそれを睨み、こう訊ねた。

「まだ諦めてないんですか。落合先生もいないのに」

「我々の悪行はまだ知れ渡っていませんから。汚名でなく、名誉だけを残す猶予はあるんですよ」

「そうですか」

華陽は次の瞬間、妖化した。一瞬で刀を引き、差し出された右腕を切り落とす。

 右手首から先が地面に落ちた。

 左沢は、呆然と切り落とされたパーツを見つめ、華陽に視線を戻した。何一つ理解できないという顔だった。

 華陽は刃先を向け、同じ鋭さの視線を添わせた。

「ここで最期を迎えることが、団から与えられた役割というなら、それを全うします。あなたを逃がすつもりはありません」

 今まで、自分のことを価値のない人間だと思っていた。そんな華陽に、居場所であり、役割を与えてくれたのが、血盟士団の仲間たちだった。

 偶然、自分が人妖としての実力に恵まれたから――ただそれだけの理由かもしれない。それでも、せっかくならその恩恵に預かりたかった。

 到底、他人には理解できない考えであることはわかっていた。それでも、華陽にとってはそれほどまでに嬉しいことであり、名誉であり、大切なことだった。

 それに、道中出会った人間に未来を託されていた。自分という人間に任された約束。使命。蔑ろにしたくはなかった。

 ずっと固まっていた左沢が、ようやく我に返った。焦燥感と忌避感を織り交ぜた目が、目の前の少女を敵と認識する。妖化し、左手で感触を確かめるように刀を握った。

「最後まで本当に厄介ですね」

華陽のより一回り大きな刃が、地面と平行になる。

 次の瞬間、刀同士が交差した。敵を射るような視線がぶつかる。二人の腕は、ぶるぶると震えていた。

 カランと乾いた音が空洞内に響いた。細い影が宙を一回転し、地面に突き刺さる。

 刀が天狗の胸を貫いた。引き抜かれると同時に血飛沫が跳ねる。妖化が解かれ、左沢はその場に膝から崩れ落ちた。

 華陽はその様を見届けると、一気に込み上げてきた疲労に身を委ね、倒れた。

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