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12.誘導計画

 田村や千路たちが戻ってくると、すぐにテントに集まり会議が開始された。

「染谷が死んだ以上、励化線の防波堤は封印石しかない。あれがなくなれば、今度こそ終わりだ。それで、今、石はどこにある?」

「わかんねえけど、団員が持ってる。少なくとも奴は、石を探してるから」

帝都が答え、後方を見た。

 その視線の先には、天狗がいた。食い止めるように、妖化した華陽が対峙している。何度もけたたましい金属音を上げながら、武器を衝突させていた。

 天見が、唇を噛み締めながら必死に見守る。その隣で、帝都が拳を握り締め、華陽に加勢しようと踵を返した。

「待て、坊主」

田村がすかさず呼び止める。帝都は足を止め、低い声で訊ねた。

「華陽を見殺しにしろと?」

「見殺しも何も、あの鬼は強いだろう? 今行く必要はない」

帝都は唇を尖らせながらも、その場に留まった。

 田村は、改めて全員のほうを見回した。

「案がある。この周辺に防空壕みたいな洞穴がある。そこに天狗を誘導し、入口を塞ぐ」

「塞ぐというのは、具体的にどうやってですか?」伊東が訊ねる。

「爆薬だ。土砂を崩壊させる。今計測させているところだが、少なくとも封印石の祠のほうに影響が及ぶことはないようだ」

団員たちが安堵の息を零す。

「それで、どうやって誘導しますか?」

千路が訊ねた。田村は、表情一つ変えずに振り向き、答えた。

「封印石を追わせるのが一番だな。流石に穴の中に封印石だけを置いておくのはあからさますぎるから、それとは別に穴へ誘導する人間は必要だ。誘導中に死なれては困るから、天狗と対等に戦える者がいい」

 全員の視線が、天狗と戦火を交える小鬼に向けられた。必死の形相で、敵の命を奪わんとする攻撃を捌き切っている。

 千路が遠慮がちに口を開いた。

「しかし、引きつけたところで天狗だけを閉じ込めようとするのは、難しいと思いますが」

「何、閉じ込めるのは二人諸共だ」

 一瞬、完全な沈黙があった。

 ガツンと鈍い音が鳴り、テントが大きく揺れた。全員の視線が、荒い息を吐く帝都に集まる。

 もう一度、テントが揺れた。

 帝都が田村を睨みながら、口を開いた。

「どういうことだ? 華陽に犠牲になれってか?」

「さっきも言ったが、頼みの綱が封印石しか残されていない。二度と過ちを起こしてはいけないのだ。それでも、万一起きてしまった場合、あの鬼は無視できない脅威になる」

「つまり、お国のために死んでもらうと――ふざけてんじゃねぇよ」

帝都が、田村に殴り掛かろうとした。すぐに、天見が引き止める。

「離せよ天見」

「帝都、落ち着いて」

「落ち着いてられっかよ! 華陽が死ぬんだぞ? それでもいいのかよ?」

天見は返答する代わりに、助けを求めるように千路のほうを見た。遅れて、田村も千路のほうを向く。

「お前には何度か悪態を突いたが、小鬼を拾ってここまで生かしてくれたことに感謝する。この国の今後のためだ、終わらせるために小鬼を使わせてくれ」

千路は無表情のまま、口を一の字に結ぶ。そして、

「こちらからも、よろしくお願いします」

頭を下げた。

 天見が絶望の顔を浮かべ、帝都が千路に掴み掛かった。

「はぁ? 何勝手に華陽の生死を決めてんだよ? そんなにお前たちは偉いのか?」

千路は何も答えず、帝都を見つめる。横から、代わりに田村がこう告げた。

「ああ。国の未来を委ねられているからな」

「だったらお前らが勝手にやって、勝手に死ね!」

「理解できないお前に何を言っても無駄だな。小鬼には、洞穴に着いたところで団員たちが天狗を総叩きにするとでも伝えてくれ。その前に、伝えるタイミングを作る必要はあるが」

 田村の指示で、団員たちが動き出した。

 帝都が、掴んでいた千路の襟元を離し、目を逸らしながらこう吐き捨てた。

「直兄の件で、ちょっとは変わったんじゃないかって期待したけど、全然そんなことはなかったな」

千路はわずかに口角を下げると、何も言わずに他の団員に倣った。

 裏で準備が進められる中、団員の介入により、華陽には作戦が伝達される時間が設けられた。千路が地図を使いながら華陽に説明する。

「封印石で左沢をこの地点に誘導する。あの細い道をまっすぐ進んだところにある。それまでに奴を倒せるなら、倒してもらって構わない」

「誘導したら、どうしたらいいですか?」

「待ち伏せした団員で総叩きにする。失敗しそうな場合は、次の作戦に移るが、三橋はここまで理解してくれれば大丈夫だ」

普段と何も変わらない、冷静な表情と口調だった。千路は、さらに偽物の封印石を華陽に差し出した。

「誘導のためとはいえ、三橋が持っているのが一番安全だと思っている。最後まで、これを守って欲しい」

華陽は一ミリも疑わず、くすんだ小石を受け取った。その様を、奥で団員たちと格闘していた左沢も、しっかりと目撃する。

「わかりました」

 こうして、誘導作戦が始まった。

 華陽は、千路からの指示通りの細い道に入り、天狗を誘き寄せた。後は道のりに添えばよいので、戦いに集中すれば済む。

 ――それまでに奴を倒せるなら、倒してもらって構わない。

 千路の声が過るが、不可能に近かった。自分が殺されないようにするだけでも精いっぱいだった。おまけに、山中の獣道が予想以上に険しく、段差や木の根っこに何度も足が取られそうになった。

 確実にこちらの息の根を止めようとしてくる一手一手を受け流すたびに、華陽の表情は苦くなった。

 ポケットの中身に意識を這わせる。

 ――最後まで、これを守って欲しい。

 はたして、その約束を守り切れるだろうか? そんな不安が脳裏を過った。

 瞬間、華陽が足を踏み外した。

 刃先が容赦なく喉元に向けられる。同じくらい鋭い目が、華陽の喉を見定めていた。

 終わった――華陽が死を覚悟したそのとき、

「先生、いつまで華陽ちゃんと戯れてるつもりですか?」

奥のほうから声がした。二人が同時に振り向く。

 茂水だった。洞穴のほうに身体を向け、二人を見据える。

「おや、茂水先生。団に捕まっていたのでは?」

左沢が、刀を突きつけたまま訊ねた。

「医師時代に救った人間がいましてね、そいつに解放してもらいました。いやぁ、恩は売るものですねぇ」

茂水はそう言い、唾を飲んだ。少し躊躇うように黙り込んだ後、再度口を開く。

「華陽ちゃんが持ってるのは、偽物ですよ」

「偽物?」

左沢が目を丸くする。無論、倒れている華陽もだ。

「ええ。華陽ちゃんも知らないみたいですが、本物は別の人間が持ってます……いや、持ってました。俺が奪ったので」

茂水はポケットに手を突っ込み、中から手にくすんだ小石を取り出した。生々しい血の跡が残っていた。

 左沢の口角が、片方だけ歪に上がった。

「助かります。今すぐそれを破壊してください」

「その代わり、華陽ちゃんは見逃してくれません?」

左沢は、理由を問うように視線を向けた。茂水は息を吐き、肩をすくめる。

「一応、同じ班にいた仲間ですし、子供が死ぬのはちょっとね。さっきも言いましたけど、恩は売っておくべきですよ」

 左沢は迷うように、石と華陽を交互に見た。やがて、刀を引き、華陽から一歩下がった。早く石を壊すように、目配せする。

「……すみません。俺には壊せないです」

 左沢は溜息を吐くと、刀を引いた。

 茂水が、石を左沢の足元に投げる。左沢は刀でそれを突き刺した。ひびが割れ、石は粉々に砕けた。

 華陽は項垂れるように、地面に突っ伏した。全身からすべての力が失われていくのがわかる。

「さて、先生。帰りましょ」

茂水がゆっくりと近づく。

 左沢はしばらく粉砕された石を見下ろした後、眉を顰めて口を開いた。

「染谷の血は、化元体の臭いがしないはずなんですがね――」

次の瞬間、刀が茂水の左腕を切り落とした。血が滴り落ち、地面を汚す。

 左沢は腕を拾い上げ、白衣をめくる。手首を切った跡が現れた。

「偽物――」

刃が上がり、茂水の胸を突き刺す。

「何故こんな真似を?」

刃をじりじりと引きながら、左沢が耳元で訊ねる。

 茂水は力なく笑った。

「今まで、花押先生の計画を正しいと思い続けてきたが、どこか違和感があった」

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