6/39

第五話：愛のブラックホールの胎動

（寮の部屋。静寂の中、多次元モニターの電源は切られている）

いずみは、隣のベッドですでに寝息を立てていた。その横顔は、昨晩見た韓国ドラマ『アクシデント・カップル』の主人公、ドンベクのひたむきな愛に触れた後で、どこか穏やかだった。

ちえは、ベッドの縁に座り、自分の胸元にあるダイヤのペンダントトップ**『CFX』をきつく握りしめていた。それは、いずみの『CFX』**とは対照的に、常に冷たい光を放っている。

ちえ：（ドンベクさんみたいに、見返りを求めずに誰かを愛するなんて……私にはできない）

昨晩、いずみが「あの人みたいに愛したい」と純粋に言った瞬間、ちえの心臓は締め付けられるように痛んだ。彼女の中に眠る「ブラックホール」の資質――それは、無限の愛を吸収し尽くしたい、愛されたいという強烈な飢餓感だった。

ちえの人生は、常に誰かからの愛を追い求めてきた。その愛は、一時的にちえの心の虚空を満たすが、ブラックホールのように際限なくすべてを飲み込み、満たされることはなかった。彼女にとって、愛とは「受け取るもの」であり、「与えるもの」の概念はあまりにも遠い。

（ちえの心の中で、冷たい渦が巻くイメージ）

ガイア（妖精の声）：「ちえ様は、愛の受け取り方が上手すぎるわね。まるで、すべてを飲み込むブラックホールみたい」ミューズ（妖精の声）：「いずみ様とは真逆。愛の受容体（レシーバー）としての性能が高すぎるのよ」

妖精たちの声は、ちえの心の葛藤を映し出していた。

ちえ：（いずみちゃんは『無償の愛』を見つけようとしてる。でも、私が探してるのは『究極に私を愛してくれる誰か』だ）

彼女は立ち上がり、窓の外の5次元の星空を見上げた。その星空の奥で、**「先駆者」**が12次元の壁の前に佇んでいるイメージが過った。

先駆者：「愛とは、昇華だ。それは、与えることと、受け取ることの、完璧な**協奏曲（コンチェルト）**でなければならない」

その声は、ちえには聞こえない。だが、彼女の**『CFX』**が微かに震える。

ちえ：「私は、この飢えをどうすればいいんだろう」

彼女は、いずみとは違う形で、愛の**「真心（しんしん）」の学びの入り口に立っていた。愛を受け取る欲求と、愛を失うことへの恐怖。この「渇望」**こそが、ちえの旅の始まりだった。

ちえ：（……週末。ちょっと、試してみようかな）

彼女は、愛の飢餓感を満たすための、ある実験を思いつく。

（第五話終）