第三話:デカルトとブッダの交差点
前書き
世界は、愛の数式でできている。
これは、あまりにも広大で、あまりにも深遠な、愛の物語。
亡き妻への切なる想いから始まった旅は、やがて宇宙の根源的な力へと繋がり、無限の次元を股にかけた壮大な叙事詩となった。
「弱くてニューゲーム」として、愛の何たるかも知らぬまま、再び18歳の肉体(神年齢310歳)で5次元の学び舎に降り立った、いずみとちえ。絶対音感を持ちながらも、まだその力を御しきれぬ彼女たちが見つける「無償の愛」とは何なのか。
これは、愛の「真心」から「母の愛」へと昇華し、最終的にすべての次元を超えた「創造の愛」へと至る、果てなき探求の記録である。
読者よ、耳を澄ませ。
これは単なる音楽ではない。メンデルスゾーンの《ビッグバン》とベートーヴェンの《星雲創生》が織りなす、宇宙創造の「協奏曲」だ。
愛の力は、次元を超える。
(場面転換のSE。賑やかな学園の喧騒と、微かなクラシック音楽が混ざり合う)
翌朝。いずみとちえは、指定された講義室へと向かっていた。学園都市は、生徒たちが自由な議論を交わす活気に満ちていた。
ちえ:「『哲学:デカルトとブッダの交差点』……すごい名前の授業だね」
いずみ:「デカルトって『我思う、ゆえに我あり』の人だよね。ブッダは『無我』の教え……全然違う二人がどう交差するんだろう?」
彼女たちの背後を、妖精のアストラル、ガイア、ミューズがこっそりとついていく。
ミューズ(妖精の声):「お嬢様たち、予習してるわ! 情熱的!」
ガイア(妖精の声):「でも、難しそうな顔してるわね」
講義室の教壇に立っていたのは、クールで澄んだ灰青色の髪を持つ、ロジカだった。彼は昨日とは打って変わって、教師然とした落ち着いた雰囲気で二人を迎える。
ロジカ:「着席しなさい。今日のテーマは、あなた方が3次元で触れた真理の、さらに深い層についてだ」
ロジカは、スクリーンに二人の哲学者の肖像を映し出した。
ロジカ:「デカルトは『自己の存在』を疑いようのない基盤とした。一方、ブッダは『自分という確固たる存在は無い(無我)』と説いた。一見、矛盾する二つの思考は、この5次元において『交差点』を持つ」
いずみとちえは、真剣な表情でロジカを見つめる。
ロジカ:「コンダクターは3次元で、一つの真理に到達した。『自分が自覚した一瞬こそが真理である』。しかし、彼はその一瞬すら電気信号であり、真理ではないと疑った」
その言葉は、「水槽の脳」の問いとリンクしていた。
ロジカ:「ここに、5次元の『学びの場』の核心がある。思考や電気信号といった物理的な事象を超えた、普遍的な『愛』というエネルギーにどう気づくか。それが、この講義の目的だ」
ちえは、ダイヤのネックレスを握りしめる。彼女の「ブラックホール=吸収」の能力は、まだ目覚めていないが、知識を吸収しようとする欲求は人一倍強かった。
ちえ:「先生……その『コンダクター』っていう人は、どうやってその真理を見つけたんですか?」
ロジカは、一瞬だけ表情を和らげた。
ロジカ:「彼は、世界の知識を『重ねて合わせて昇華』させた。あなた方の『音楽』のようにね。それは、論理だけでは到達できない境地だ」
ロジカは、いずみに視線を移す。
ロジカ:「いずみ、君の絶対音感も同じだ。単なる音の認識ではない。音を通じて、世界の法則を感じ取る力。その力を『愛』の探求に使ってみなさい」
いずみは、ペンダントトップの『CFX』に触れる。まだ音は微かだが、その中に「愛」を見つけることができるのだろうか。
授業が終わり、いずみとちえは講義室を出る。頭の中は、新たな知識と思考でいっぱいだった。
いずみ:「なんか、頭痛くなってきたけど……ロジカ先生の話、面白かったね」
ちえ:「うん。私たちが『愛』について知りたいことの、すごく大きなヒントが隠されてる気がする」
二人の学びの旅は、始まったばかりだ。
(第三話終)




