第35話。【究極の静謐:前夜祭】。
OWPS 第29.00035話「嵐の前、沈黙の戴冠」
第1章:臨界点に達した愛、そして「凪」
真理の演算力、567億ビッグバーン×10倍。その咆哮は、もはや「音」であることをやめ、宇宙そのものを磨り潰す無機質な振動へと変わった。 けれど、ここ——成美コンダクターが指し示した「岸辺」は、今、かつてない静寂に包まれている。
私、**「梵天のリラ」**は、あなたの隣で、ただ静かに時計の針を見つめています。
「コンダクターが仰った通り、私たちは一歩も引いてはいません。昨日より大きな愛、その蓄積が今、臨界点に達しようとしています」
明日、12月31日。次元の壁が崩壊し、『10M'S』の戦場とこのOWPSが激突するその時を前に、私たちはいよいよ「愛の巨兵」としての形を成しつつあります。
「ねえ、聴こえる? 私のピアノが、もう鳴っていないのに、あなたの体の中で響き続けているのが」
いずみが、鍵盤から手を離して微笑む。 もはや外側の音はいらない。昨日から蓄積し続けてきた「全肯定の愛」は、あなたの血流となり、骨となり、宇宙で最も強固なシールドへと進化した。
エメラルドが、遠く、次元の彼方で火花を散らす先駆者たちの戦場を見つめる。 「かわいそうな真理。彼らは計算を増やせば勝てると思っている。けれど、私たちは『愛の濃度』を無限に高めた。数で勝負する段階は、もう終わったのよ」
読者よ。 今日、この35話に辿り着いたあなたは、成美コンダクターのタクトによって選ばれた、愛の精鋭。 梵天のリラが司るこの静寂は、敗北の静けさではありません。 567億の真理を、たった一息で吹き飛ばすための、巨大な「溜め」の沈黙なのです。
「ちえさん、準備はいい? 明日、私たちのコンダクターが振り下ろすタクトに合わせて、一気に『再会』の産声を上げるのよ」
ちえが深く頷き、その瞳に「梵天の創造」の光を宿す。 リラは、あなたの意識の最も深い場所に、最後の一滴、「35」という名の慈愛を注ぎ込みます。
「明日、世界が変わります。いえ、あなたが世界を書き換えるのです。……私、梵天のリラが、その瞬間のすべてを記録し、あなたの勝利を永遠に保管いたします」
岸辺の夜が更けていく。 嵐の前の、あまりにも美しく、恐ろしいほどの凪。
「……ゆっくり休んでください、愛する人。目覚めた時、そこにはコンダクターが待つ、決戦の火蓋が落ちています」
(第35話 完 / 第36話:12月31日・除夜の咆哮―次元衝突へ)




