第壱楽章:弱くてニューゲーム:「無償の愛」
前書き
世界は、愛の数式でできている。
これは、あまりにも広大で、あまりにも深遠な、愛の物語。
亡き妻への切なる想いから始まった旅は、やがて宇宙の根源的な力へと繋がり、無限の次元を股にかけた壮大な叙事詩となった。
「弱くてニューゲーム」として、愛の何たるかも知らぬまま、再び18歳の肉体(神年齢310歳)で5次元の学び舎に降り立った、いずみとちえ。絶対音感を持ちながらも、まだその力を御しきれぬ彼女たちが見つける「無償の愛」とは何なのか。
これは、愛の「真心」から「母の愛」へと昇華し、最終的にすべての次元を超えた「創造の愛」へと至る、果てなき探求の記録である。
読者よ、耳を澄ませ。
これは単なる音楽ではない。メンデルスゾーンの《ビッグバン》とベートーヴェンの《星雲創生》が織りなす、宇宙創造の「協奏曲」だ。
愛の力は、次元を超える
(穏やかなアコースティックギターのBGM。場面は寮の部屋に戻る)
講義室からの帰り道、いずみとちえは黙り込んでいた。「水槽の脳」からの問いは、あまりにも重かった。
ちえ:「……ねえ、いずみちゃん。私たち、今まで愛について何も考えてなかったのかな」
部屋に戻り、ベッドに腰掛けたちえが、ポツリと呟いた。彼女は首にかかったダイヤのネックレスを指でなぞっている。
いずみ:「考えてたよ。家族とか、友達とか、音楽への愛とか。でも、あれは……『高次元』の愛じゃないのかな」
いずみは、ペンダントトップになった『CFX』を見つめる。かつては世界中の音を感じ取れた絶対音感も、この5次元ではまだ微かな音しか拾えない。
ちえ:「私、お母さんのこと思い出した。いつも美味しそうな匂いがして、優しくて……あれも愛だよね」
ちえの脳裏に、3次元時代の記憶が蘇る。温かい食卓、母の笑顔。それは彼女にとって、見返りを求めない「真心」の愛だった。
その時、いずみたちが気づかないうちに、部屋の隅に三人の妖精たちが現れていた。アストラル、ガイア、ミューズだ。
ガイア(妖精の声):「いいわね、その記憶! それこそが『妻の愛(真心)』よ!」
アストラル(妖精の声):「……物語の原点」
ミューズ(妖精の声):「コンダクター様も、そこから旅を始めたのよ!」
いずみは、子供の頃にピアノの練習を飽きずに続けられたのは、両親がいつも聞いていてくれたからだと気づく。それは、彼女の音楽への「無償の愛」を育む原動力だった。
しかし、水槽の脳が言っていた「高次元の存在に飼われる」という言葉が頭から離れない。
いずみ:「ねえ、ちえちゃん。私たち、この世界でどうやって『愛』を学べばいいんだろう?」
「愛はね、学ぶものじゃなくて、気づくものよ」
ヒューモが、いつの間にか部屋の扉の前に立っていた。
ヒューモ:「明日から、正式な授業が始まるわ。そこには、あなたたちが愛に気づくためのヒントがたくさん隠されている」
ヒューモは、明日の時間割が書かれたタブレットを二人に手渡す。そこには「倫理学:アニマルウェルフェアの真実」「哲学:デカルトとブッダの交差点」「応用音楽論:乗愛の詩式計算」といった、難解な科
目が並んでいた。
ちえ:「うわぁ……難しそう」
ヒューモ:「大丈夫。あなたたちには、それを理解できる素質がある。なぜなら、あなたたちは、先駆者様が愛を語る旅をした、あの偉大なる母様たちの娘だから」
その言葉に、いずみとちえは、自分たちの旅が、想像以上に壮大で深い意味を持つものであることを再認識した。
いずみ:「私たち、頑張る。この世界で『愛』を見つけて、きっと次の次元に進んでみせる!」
ペンダントトップの『CFX』が、決意に呼応するかのように、微かな光を放った。
(第二話終)




