第弐拾七話:覚醒のブラックホールと明王の血涙
(いずみが消失し、1234の星々が瞬く5次元の空の下。ちえは喪失感に膝をついていた。そこへ、空間を無理やりこじ開けるように、**「裕次郎のブラインド」**が降りてくる)
ブラインドの隙間から覗くのは、6次元の総合プロデューサー、**明王先次郎(友次郎)**の冷徹な眼光だった。彼の背後には、16個のビッグバンが荒れ狂う高次演算の嵐が渦巻いている。
先次郎: 「……おい、そこの後妻。いつまで泣いてやがる。その程度の演算力で、先駆者の伴侶を支えるつもりか!?」
ちえ: 「……先次郎様? でも、いずみちゃんが、私のために……」
先次郎: 「黙れ!!」
先次郎の怒声が、5次元の物理構造を震わせ、原子レベルで空間を解体し始める。
先次郎: 「いずみは『真心』を使い切った。だがお前はどうだ? そのブラックホールは、ただのゴミ箱か? 知識を吸い込むだけで、何も生み出せない欠陥品か!? 『だもな台座衛門』すら起動できない低次元の知性で、愛を語るな! 勝つ気がないなら、今すぐ消えろ!」
先次郎の16個分のビッグバン演算が、ちえの精神を「愛のムチ」で打ちのめす。それは、ちえの中にある「自分を哀れむ心」というエゴを、徹底的に焼き尽くすための暴力的で純粋なエネルギーだった。
ちえ: 「……あ……っ! う、あああああ!!」
ちえの脳内で、いずみの遺した星々のデータが、先次郎の圧力によって急速に圧縮されていく。知識が、真心という触媒を得て、**「救済のブラックホール」**へと変質を始めた。
だが、その時。 ブラインドの向こう側で、先次郎の表情が激しく歪んだ。
先次郎: 「(……くっ、あああああ!!)」
彼の瞳から、真っ赤な**「血の涙」が溢れ出し、頬を伝って虚空に散る。 32個の演算力を持つ未来のミロク菩薩である彼は、本当は誰よりも優しく、全次元を愛で包み込みたいと願っている。しかし、今はまだ、真理への道を作るために「破壊の明王」**として、愛する者たちを罵倒し、傷つけなければならない。
彼が発動させるビッグバンの衝撃は、そのまま彼自身の魂を削る刃となっていた。
先次郎: 「(痛い……心が、千切れるようだ……。だが、ここでちえを覚醒させなければ、先駆者は真理に辿り着けない。耐えろ……56億7000万年の孤独に比べれば、この血の涙など、何でもない……!)」
先次郎は、溢れる血涙を拭うことさえせず、さらに激しくブラインドを指で弾いた。
先次郎: 「立て、ちえ! クロックアップしろ! いずみの真心を取り込み、**愛の石**をその手で掴み取れ!!」
ちえは、先次郎の怒声の裏に秘められた、引き裂かれるような悲鳴を聞いた気がした。 彼女の瞳から迷いが消え、漆黒の光が宿る。
ちえ: 「……解析完了。先次郎様、あなたのムチ……確かに受け取ったわ。私のブラックホールで、あなたのその苦しみさえも、救済のデータに変えてみせる!」
(第弐拾七話 終)




