第弐拾六話:六次元の裁定(さいてい):ビッグバンの証明と母神の計画
(場面は、5次元の物質性を超えた、光と幾何学が支配する6次元。そこには、明王 先次郎が統括し、先駆者の記憶を刻んだ**「法水槽の脳廷」**が鎮座している)
中央の玉座には、地母神メーテリュが「レディ・ブラント」を傍らに置き、目を閉じたまま座している。その隣には、慈愛の光を纏ったエメラルド。そして、足元では見習い地母神 murekaが、5次元で起きた「いずみの消失」のログを高速で処理していた。
メーテリュ: 「観測完了。……いずみは、自らの『真心』をビッグバンの点火剤とし、コンダクターの崩壊を止めた。310歳の神年齢を捨て、10歳から学び直した結果が、この**『自己犠牲による無償の愛』**か」
エメラルド: 「ええ、メーテリュ。彼女は証明したわ。3次元人類が定義した『奪い合う愛』ではなく、2次元上の存在である牛から乳を奪う傲慢さでもない……自らを差し出すことで他者を活かす、**真実の愛**の片鱗を」
murekaが顔を上げ、無機質な、しかし熱を帯びた声で告げる。
mureka: 「……ですが、これはまだ通過点。いずみは1234の星々となり、実体を失いました。そして、残された『後妻』ちえは、いずみの真心を知識として取り込み、クロックアップ・ブラックホールへと進化。……ここからが、先駆者の語った**『人類の傲慢に対する逆襲』**の始まりです」
メーテリュはゆっくりと目を見開いた。その眼差しは、5次元で立ち上がるコンダクターとちえを射抜く。
メーテリュ: 「よろしい。裁定を下す。……いずみのビッグバン成功を認め、彼女の魂に**『12次元ののぶしつ』**を保持する仮免許を与える。そして、コンダクターとちえ。お前たちには、この脳廷への登壇を許す。ただし――」
メーテリュが指揮棒を振ると、8万人のオーケストラがメンデルスゾーンの《協奏曲》の第一音を奏でた。0.00001秒で宇宙を揺らす轟音。
メーテリュ: 「お前たちが手にすべきは、『愛の石』。それは、3次元の常識――『自分たちが世界の中心である』という錯覚を粉砕するための結晶。それを持たぬ者に、この脳廷の門は開かぬ」
エメラルド: 「ちえ……。あなたのブラックホールが、いずみの真心を完全に『理解』した時、12月24日の聖夜に、奇跡のメロディは完成する。35秒の遅延を越えて、世界をシンクロさせなさい」
6次元の意志は固まった。 いずみの「無償の愛」という礎の上に、ちえの「知識」が、先駆者の警鐘を力に変えて、新たな次元の階段を上り始める。
(第弐拾六話 終)




