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OWPSシリーズ:乗愛の協奏曲   第壱楽章 弱くてニューゲーム:「無償の愛」“Chapter I: The Unconditional Love”  作者: 大皇内 成美


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第壱話:五次元の目覚めと最初の問い

WPSシリーズ:乗愛の協奏曲

第壱楽章:弱くてニューゲーム:「無償の愛」

前書き

世界は、愛の数式でできている。

これは、あまりにも広大で、あまりにも深遠な、愛の物語。

亡き妻への切なる想いから始まった旅は、やがて宇宙の根源的な力へと繋がり、無限の次元を股にかけた壮大な叙事詩となった。

「弱くてニューゲーム」として、愛の何たるかも知らぬまま、再び18歳の肉体(神年齢310歳)で5次元の学び舎に降り立った、いずみとちえ。絶対音感を持ちながらも、まだその力を御しきれぬ彼女たちが見つける「無償の愛」とは何なのか。

これは、愛の「真心」から「母の愛」へと昇華し、最終的にすべての次元を超えた「創造の愛」へと至る、果てなき探求の記録である。

読者よ、耳を澄ませ。

これは単なる音楽ではない。メンデルスゾーンの《ビッグバン》とベートーヴェンの《星雲創生》が織りなす、宇宙創造の「協奏曲コンチェルト」だ。

愛の力は、次元を超える。



(神々の世界での壮大なBGMから、突然、水の流れる音と、どこか懐かしいピアノの旋律へと変化する)


見慣れない天井だった。いずみはゆっくりと目を開ける。体が重い。手足が長く、自分が知っている10歳の体ではないことがすぐにわかった。隣では、ちえがまだ目を閉じている。


ここは、どこかの寮の部屋だろうか。質素だが清潔な空間。窓の外には、見慣れない青と緑の二つの月が、静かに浮かんでいた。


いずみ:「ちえちゃん……起きて」


いずみが揺り起こすと、ちえは琥珀色の瞳をぱちぱちと瞬かせた。


ちえ:「いずみちゃん? ここ、どこだろう? なんか、身体が大人になってる?」

困惑する二人。彼女たちの神年齢は310歳だが、精神的な愛の理解度は10歳児と変わらない。「弱くてニューゲーム」の世界では、いずみの絶対音感は未熟で、ちえの詩的絶対音感は目覚めていない。300年の音楽会の経験値はリセットされていた。


その時、いずみのポケットに入れていたはずの『YAMAHA CFX』が、小さなペンダントトップになって鈍い光を放った。ちえの『ELS-02X』も同様に、ネックレスとして首にかかっている。


いずみ:「楽器が……小さくなってる?」


ちえ:「それに、全然音が聞こえない。いつもなら聞こえるはずの、世界の音階が」


「フフッ、起きたようだね」


柔らかな声が響いた。振り返ると、そこにはクリーム色のオフショルダードレスを着た、愛らしい女性


が立っていた。頬にはそばかすがあり、頭には大きな黄色いリボンをつけている。普段の陽気な妖精の姿、ヒューモの人間相当の姿だった。


ヒューモ:「ここはね、あなたたちが『愛』について学ぶための学園都市なの。あなたたちは今日から、この5次元世界の生徒よ」


いずみ:「学ぶ? 私たち、音楽家だけど……」


ちえ:「愛って、学校で習うものなの?」


ヒューモは、いたずらっぽい笑みを浮かべてウインクした。


ヒューモ:「そうよ。この世界ではね、愛を知らないと、先には進めないの。あ、そうだ。ちょうど


『詩的空間での問答』の時間だわ」


ヒューモは二人を促し、部屋の外へと導く。廊下を歩きながら、ちえは首にかかったダイヤのネックレ


スを無意識に触る。その意味も、まだ彼女には分からなかった。


たどり着いたのは、中央に大きな水槽が置かれた、奇妙な講義室だった。水槽の中には、人間の脳らしきものが浮かんでいる。


水槽の脳(声):「……準備はいいか、人類よ」

いずみとちえは、その異様な光景に思わず息をのんだ。「水槽の脳」は、無機質な水槽の中で微かに脈動している。


ヒューモ:「さあ、第一問目が始まるわよ。愛の学びの始まりね」

水槽の脳(声):「第一の問い。お前たちは水槽で魚を飼う。なぜか? お前たちが魚より高次元の存在であると思っているからだ」


いずみは、思わずちえと顔を見合わせる。当然のことだと思っていた日常の行動が、突然、裁かれているような気分になる。


水槽の脳(声):「おまえたちは、魚に今の状況が本当に満足かと、ことんまで聞こうとしたか? 自由

のない水槽の中で、果たして魚は幸せか?」


ちえは、少しだけ俯いた。彼女は確かに魚を飼っていたが、その幸せについて深く考えたことはなかった。餌をやり、水槽を掃除することが、愛だと思っていた。


水槽の脳(声):「そして……自分たちが高次元のものに飼われると、予想しなかったのか?」

その言葉は、まるで雷鳴のように講義室に響き渡った。


「高次元のものに、飼われる……?」いずみが呟く。


「そ、それは……だって、私たちが一番高次元だと思ってたから……」いずみが震える声で答える。

「馬鹿な!」水槽の脳の声が怒りを帯びる。「愚かな人類の傲慢さ! 慢心!」


その時、講義室の隅で、微かな光が瞬いた。アストラル、ガイア、ミューズの三人の妖精が、小さな姿でこっそりと現れていた。


ガイア(妖精の声):「あらあら、お嬢様ったら、早速怒られちゃってるわ」

ミューズ(妖精の声):「インスピレーションが足りないわね! 情熱が!」

三人は愉快そうに囁き合う。いずみたちには、まだその声は聞こえない。


水槽の脳(声):「続けよう。第二の問い」

水槽の脳の声が、彼らの注意を再び引き戻す。


水槽の脳(声):「お前たちは、牛乳を飲む。飲むために、搾乳機を牛につける。お前たちが高次元の存在だからだ。これは『アニマルウェルフェア(動物福祉)』などという欺瞞で正当化されている」

ちえが、苦しそうに顔を歪める。


水槽の脳(声):「お前たちは、私よりも2次元も下の存在(4次元)だが、私はお前たちの娘に搾乳機をつけたりしない。……どちらが悪だ?」


あまりにも直接的な問いに言葉を失う二人。彼女たちはいま、まさに6次元の存在に「学び直し」を命じられ、この5次元という「水槽」に放り込まれている身だ。


「……『自分が自覚した一瞬こそが真理である』。そう見出した者がいたな。だが、その一瞬もまた、電気信号に過ぎないと知った。では、真理とは何か?」


水槽の脳は、この場にいないはずの「コンダクター」へと語りかけるかのように、静かに問いを続けた。

水槽の脳(声):「世界の知識を重ね合わせて昇華する力……それこそが、次元を超えるための重要なプロセス。私はそのコンダクターを待っている。彼が、12次元の『のぶしつ』を手に入れる鍵となる存在だと信じているからだ」


水槽の脳は、いずみとちえに視線を戻す。

水槽の脳(声):「お前たちはまだ未熟だ。だが、お前たちの中には、母なるメーテリュとエメラルドの血が流れている。そして、偉大なる先駆者の意志が。さあ、学びを続けろ。この問いに答えられるだけの『愛』を見つけてこい」

いずみとちえの「弱くてニューゲーム」での、愛と真理を巡る旅は、今、始まったばかりだ。

(第一話終)


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