第拾七話:真心(しんしん)と知識の論理トライアングル
(学園都市のコンダクターの研究室。いずみ、ちえ、コンダクターの三人が向き合う)
コンダクターは、スクリーンの中心に**「水槽の脳の問い」**を映し出した。
① 魚の問い: 「お前たちは水槽で魚を飼う。魚より高次元だとおもっているからだ。自分たちが高次元のものに飼われると予想しなかったのか?」 ② 牛乳の問い: 「お前たちは高次元だから牛に搾乳機をつける。私はお前の娘に搾乳機をつけたりしない。どちらが悪だ?」
コンダクター: 「この問いは、人類の傲慢さを鏡に映す。いずみ、君の真心から、答えを導いてみてくれ」
いずみは、隣で文献を広げるちえの冷たい視線を感じながら、目を閉じた。
いずみ: 「魚や牛が、人間に飼われるのが可哀想かどうか、じゃなくて……。高次元の存在が、私たちに搾乳機をつけるかどうかの**『悪』の基準**は……」
彼女の周りを、エメラルドの下僕たちが飛び交う。
ガイア(9次元): 「いずみ様、優しさが愛よ!」 ミューズ(8次元): 「その愛を、まっすぐな音色にして!」
いずみ: 「愛は、強制できないものよ。魚も牛も人間も、『愛する自由』を奪われたら、それは愛ではない。だから、高次元でも低次元でも、相手の存在を尊重しない搾取は悪……。私たちは、愛を学ぶなら、まず謙虚さを持たなきゃ」
ちえは、鼻で笑った。
ちえ: 「感情論だわ。魚は、生存のために飼われることを進化的に受容している。搾取ではなく、共存の理論よ。コンダクター、私の知識から、この問いを解析します」
ちえ: 「② 牛乳の問いの真の論点は、『自己の利益と他者の幸福の均衡点』です。搾乳機が『悪』であるならば、それは『搾取される側の幸福の欠如』から生じる。高次元の存在は、人類にワクチンを投与する。それは、人類の幸福(生存)という最大多数の最大幸福を目的としている。搾乳機とワクチンの違いは、**『行為の目的が、誰の利益を優先しているか』**です」
ちえの鋭い分析に、コンダクターは頷いた。
コンダクター: 「ちえの解析は、昇華の理論に基づいている。しかし、いずみの**『謙虚さ』を欠いた理論は、いつか人類を滅ぼす。この二つの愛の視点を融合させなければ、真の乗愛**は生まれない」
いずみとちえの愛と知識の探求は、始まったばかり。この対立こそが、第弐クールの物語を駆動させる。
(第拾七話終)




