第拾伍話:真心(しんしん)の波動とブラックホールの苦悩
(学園都市の部屋。コンダクターはまだベッドに伏せている。いずみとちえが交代で介抱にあたっている)
ちえは、コンダクターのそばで、母メーテリュの眼鏡をかけ、多次元の文献を広げていた。彼の精神的な病魔は去ったものの、自己犠牲の悲しみという、ちえのクロックアップ・ブラックホールでも吸収できない、純粋な心の痛みが残っていた。
ちえ: 「ダメだ。悲しみは、知識の理論では解消できない。いずみちゃんの乗愛の力で救われたはずなのに……」
ちえが理論的なアプローチで介抱を試みる中、いずみが温かいお茶とタオルを持って入ってきた。いずみは、**韓国ドラマ『アクシデントカップル』で学んだばかりの、飾り気のない「真心」**を実践した。
いずみ: 「コンダクターさん、目覚めて。ドンベクさんが、苦しんでいる人にそっとそばにいるように、私もそばにいるよ。愛されたいとかじゃなくて、ただ、あなたが元気になってほしいの」
いずみは、コンダクターの頬にそっと手を添え、優しく微笑んだ。
その瞬間、コンダクターの魂の波動が、目に見えて安定した。ちえの理論と知識では変化しなかったコンダクターの悲しみの音色が、いずみの**「無償の愛」というシンプルな音色によって、ゆっくりと調和**を取り戻し始めたのだ。
ちえは、その光景を母の眼鏡越しに見つめ、激しい嫉妬と苦悩に襲われた。
ちえ: (なぜだ……! なぜ、私のメーテリュの知識とブラックホールの力ではできないことが、いずみちゃんの韓国ドラマで学んだばかりの愛でできてしまう!?)
ちえの心の中で、ブラックホールの渇望が叫びを上げる。
ちえ: 「知識、知識、知識……! 『愛は無償でなければならない』という理論は知っている! しかし、私は愛されたい! コンダクターの愛を、いずみではなく、私が独占したい!」
ちえは、眼鏡を外した。彼女の茶栗色の瞳は、愛への渇望で揺らめいていた。彼女は、いずみの無垢な真心を前に、自身のブラックホールの本質が、永遠に満たされない愛の欠陥を抱えていることを自覚した。
アストラル(10次元): (囁き声)「お嬢様、愛の波動がコンダクター様に届いています。知識を超えた**『希望の愛』ですね」 ガイア(9次元): (囁き声)「ちえ様は、知識で頭でっかちになりすぎよ! 真心が一番なのに!」 ミューズ(8次元): (囁き声)「二人の愛の音色は、今、不協和音を奏でています。これが昇華**できるか……」
ちえは、妖精たちの囁きにも、いずみにも、激しく反発した。
ちえ: 「違う! 私の知識が、いつか、この無償の愛を凌駕する! いずみちゃんの愛は、感情論よ。私こそが、真の愛の理論をコンダクターに捧げる最初の妻になるべきなの!」
コンダクターは、いずみの愛の波動に包まれ、ゆっくりと目覚めた。彼が最初に見たのは、優しい笑顔のいずみと、その傍らで激しく嫉妬に苦しむちえの姿だった。
(第拾伍話終)




