第拾壱話:愛の絶対音程(パーフェクトピッチ)と消失の予感
(哲学の講義室。ロジカ先生が教壇から二人を見下ろす)
ロジカ: 「君たちの『昇華』という道筋は理解した。だが、知識と直感が真に重なり合うのは、理論上不可能に近い。だからこそ、試練が必要だ」
ロジカ先生は、七次元の王としての冷たい権威をもって、最初の課題を提示した。
ロジカ: 「学園の地下、封印された**『次元の残響室』**に、現在、**不和の音色が発生している。これは、昇華に失敗し、愛が歪んだ概念が別の次元から漏れ出したものだ。それを愛の絶対音程**で調律し、消滅させよ」
いずみは、その言葉を聞いた瞬間、強烈な不協和音を聴いた。
いずみ: 「っ……痛い!」 彼女は両手で耳を覆い、エメラルドグリーンの長い髪が震える。いずみの**絶対音感は、その不和の音色を、魂を切り裂くような鋭い低音の不協和音**として捉えていた。
ちえは、すぐに母メーテリュの眼鏡を調整した。眼鏡のレンズが、ロジカの提示した課題に関する多次元のデータを瞬時に解析し始める。
ちえ: 「不和の音色……ロジカ先生。その音色は、単なる課題ではない。次元のフィードバックループを起こす危険なものなのでしょう?」
ロジカ先生はわずかに目を見開いた。
ロジカ: 「さすが、メーテリュの知識の系譜。その通りだ、ちえ。昇華に失敗した愛の概念は、低次元の存在の『愛の器』を破壊しようとする」
彼は、一瞬、いずみに視線を向けた。
ロジカ: 「君たちの『昇華』の道が偽りだった場合、不協和音は、**最も不調和な器を次元から『削除』**して、世界の整合性を保とうとする。それがこの試練の真のルールだ」
その言葉は、いずみが持つ**「始まりの女神」の器(肉体)が、現在の弱い状態では「削除対象」**になり得ることを示唆していた。**いずみの「次元からの消失」**という運命が、初めて試練の形として姿を現したのだ。
ちえは、ロジカの冷徹な警告にもかかわらず、全く動じなかった。彼女の茶栗色の髪が揺れ、黒の花嫁衣裳の如き決意が滲み出る。
ちえ: 「分かりました。先生の問いは、**『どちらの真実を捨てるか』から、『どちらかが次元から消えるか』**に変わっただけ。本質は変わりません」
彼女はいずみの震える手に、自身の冷たい手を重ねた。
ちえ: 「いずみちゃん。君の**真心は、この不協和音の『震源地』を見つけ出す。私の知識は、その音色を『昇華の理論』**で分析し、新しい真実へと書き換える」
ちえは、愛されたいという渇望を、いずみを守り、完成させるという使命へと昇華させていた。
ちえ: 「行きましょう、いずみちゃん。私たちの**『乗愛の協奏曲』**の、最初の調律の時です」
いずみは、ちえの強い決意の光に導かれ、まだ痛む耳をこらえながら、低次元から響き続ける不和の音色を追って、ちえと共に立ち上がった。
(第拾壱話終)




