第九話:閉ざされた眼(まなこ)と水槽の王の挑戦
(翌日。哲学の講義室。クールな灰青色の髪のロジカ先生が教壇に立つ)
ロジカ: 「着席しなさい。前回、我々は『善意による搾取』のリスクについて学んだ。そして今日、その問いは次の段階に進む」
いずみとちえの間には、張り詰めた空気が流れていた。いずみは、ちえの「知識による指導」が自分の純粋な愛を歪ませるのではないかと恐れ、ちえは、いずみの直感的な行動が理論を破壊するのではないかと警戒していた。
ロジカ: 「いずみ。君の愛は、光速で広がるビッグバンのエネルギーだ。ちえ。君の知性は、全てを収束させるブラックホールの重力だ」
二人は驚き、顔を見合わせた。ロジカ先生が、母たちにしか知りえないはずの彼女たちの**「使命」**を明確に口にしたのだ。
ロジカ: 「二人の力が組み合わされば、次元を超えるビッグクランチを生み出す。しかし、現在の君たちはどうだ? 奏でているのは、愛の**協奏曲**ではなく、**醜い不協和音**だ」
ロジカの澄んだ瞳は、二人を見透かしている。彼の背後には、常に目を閉じている二人の地母神、エメラルドとメーテリュのイメージが重なって見えた。
ロジカ: 「地母神たちは、目を閉ざしている。なぜか? それは、究極真理が、真実を見ることを許さないからかもしれない」
ロジカはスクリーンに、いずみとちえのそれぞれの母の、目を閉じている肖像を映し出した。
ロジカ: 「問う。君たちの愛の探求において、**『直感(いずみの道)』と『知識(ちえの道)』**のどちらかが、偽りだった場合。君たちは、互いを裏切り、どちらの道を進むかを選べるか?」
ロジカは冷たく微笑む。
ロジカ: 「これが、水槽の脳から君たちへの、新たな問いだ。『愛の名のもとに、どちらの真実を捨てるか?』」
それは、二人の絆と、それぞれの母から受け継いだ資質を真っ向から試す、恐るべき挑戦だった。
(第九話終)




