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第2章:圏外の山奥へ、私のSOS

部長の言葉は、まるで青天の霹靂だった「デジタルデトックス合宿所」? 冗談は顔だけにしてくれ、と心の中で叫んだ。私の人生からデジタルを奪うなんて、それは拷問だ。拷問以外の何物でもない。


「あの…部長。私、情シスです。システムのプロです。なのに、なぜアナログな場所へ?」

私の震える声に、部長はフッと笑った。珍しい。普段は仏頂面なのに。


「だからこそ、だ、綾瀬。君のスキルが必要なんだ。ゼロからシステムを立ち上げられるのは、君しかいない」

ゼロから? いや、ゼロ以下だ。この合宿所、完全に「マイナス」からのスタートじゃないか?


説明によると、合宿所は元々、過疎の村にあった古民家を改築したものらしい。電波はかろうじて入るらしいが、Wi-Fi環境は皆無。サーバーも、古い中古品をなんとか用意しただけだという。おいおい、マジかよ。


「来週から、現地入りしてくれ」

部長の言葉に、私の心臓がギュッと締め付けられた。来週? 今から? 急すぎる!


私は、普段持ち歩いているガジェットの数を数えた。iPhone、iPad、MacBook Pro、モバイルバッテリー2個、Apple Watch、Bluetoothイヤホン、ポケットWi-Fi…これ全部、あの山奥で使い物になるのか? いや、無理だ。考えるだけで胃が痛い。


「ねぇ、くるみ、なんか元気なくない?」

休憩時間、同期の涼子に声をかけられた。彼女はいつも明るくて、私とは正反対のタイプだ。SNSでは「リア充爆発」な投稿ばかりしている。


「いや、ちょっとね…『デジタルデトックス』とかいう地獄の任務が降ってきてさ」

私は、自嘲気味に笑った。涼子は目を丸くしている。


「えー! マジで!? 面白そうじゃん! インスタ映えしそう!」

インスタ映えだと? 私の心の中は、エラーコードでいっぱいだ。404 Not Found!


翌日、私はAmazonでモバイルバッテリーをさらに2個追加注文し、オフラインでも使える地図アプリをダウンロードしまくった。もはや、デジタル版のサバイバルキットだ。


そして、運命の出発当日。私は重いバックパックを背負い、都会の喧騒を離れた。新宿駅のホームから、特急列車に乗り込む。窓の外の景色は、高層ビル群から次第に緑へと変わっていく。


スマホの電波が、徐々に弱まっていくのがわかる。アンテナが、一本、また一本と消えていく。まるで、私の生命線が断ち切られていくような感覚だ。


やがて、電波は完全に圏外となった。画面に表示される「サービスエリア外」の文字。その瞬間、私の体は、まるで充電が切れたロボットのように固まった。


ここはどこ? 私は何をしている? 世界は、まだ存在しているのだろうか? そんな、根源的な問いが頭を駆け巡る。私のデジタル脳は、「SOS信号」を出し続けていた。


都会の檻から解き放たれた、いや、強制的に放り出された情シス女子のデジタルサバイバルが、今、始まる。果たして私は、この「圏外」の世界で、生き残ることができるのだろうか? この身体が、この心が、デジタルなしでも動くのだろうか?

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