第一話 「お嬢様の妄想列車爆走」 ①
「ねねねね熱愛⁉ どういうことですの⁉」
桜川学園中央校舎三階。三年生の教室が並ぶ廊下に、杭院羽愛留の叫びが響いた。その手には学園新聞の号外が握られていた。号外は、羽愛留と麗子の熱愛疑惑を報じていた。
「メディアは必要以上に書き立てますから」
その叫びに答えたのは、入校許可証を首から下げたメイド。
「いやですわ。全然、そういう仲じゃ、ありませんのにぃ……。おーほっほっほっ」
と言いつつも、羽愛留は白い肌を首元まで桃薔薇色に染め、火照る頬を手のひらで仰いでいる。まんざらでもなさそうだった。
その時、革命的な閃きがお嬢様の脳髄に舞い降りた。
「遅刻寸前の生徒同士が街角でぶつかって恋に落ちる……そんな話を聞いたことがありますわ‼‼」
続いて、もう一撃。天啓が、お花畑が広がるお嬢様の脳みそをうった。
「もしかして麗子さんはあたくしのことを……⁉」
勘違いである。
のだが。お嬢様の脳内では、既に、脚色に脚色を重ねた記憶の再生が始まっていた。
病室で麗子から向けられた熱っぽい視線。自分のことをまるで女神と見紛うかの如く、驚愕に見開いたあの目。あの悩ましげに濡れた目。徐々に薔薇色に染まっていく頬。あれは。
「一目惚れに間違いありませんわ~‼」(※お嬢様にはちょっぴり妄想癖がございます)。
「どどどどどうしましょう〜⁉」
薔薇色に染まった頬を両手で覆いながら、くねくねと妙にフレキシブルな動きを披露するお嬢様。
万年ぼっちなお嬢様とって、これは願ってもないチャンスだった。
朝はリムジンに揺られ、授業が一つ終わる毎に愛し合い、昼は庭園でゆっくりと昼食をとり、放課後は街を散策。休日はお泊りデート。これまでの空白を埋めてお釣りがくる。
「相思相愛を目指すほか、ありませんわ!」
走り出したお嬢様の勘違い妄想列車は、もう止まらない。
はぁ。メイドが溜息をついた。