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プロローグ②

 二日後。

 麗子(れいこ)が登校すると学園中がざわついた。生徒たちが自分のことを見ている気がした。

 麗子のあまりに早すぎる復帰に驚いている、訳ではなかった。杭院羽愛留(くいいんはあと)が謎の一年生同伴で登校したという事実が学園中を震撼させたのだ。

 それもそのはず。杭院羽愛留と言えば、学園にその名を知らぬ者のないほどの超有名人なのだ。

 昨年末に実施された『桜川学園お嬢様格付け(ランキング)』では、堂々の序列二位。溢れる気品、美しい身のこなし、誰もが憧れる学園の女王。それが杭院羽愛留だった。

 外部受験組の麗子は、もちろんそんなこと知る由もなく。

「あの、お嬢様。なんだか見られてるような……」

「おーほっほっほっ! 堂々としていればよいのですわ!」 

 リムジンから降り、校門から昇降口へと続く直線の真ん中を、羽愛留は胸を張って歩き出す。麗子も少し遅れて、その斜め後ろにくっついて行く。

 何故こんなことになったのか。麗子は病室で目を覚ました時のことを思い出す。


 誰かに優しく頭を撫でられた気がして、目を覚ました。

 初めに視界に飛び込んできたのは、天井のトラバーチン模様。知らない天井だ。どこだろうここは。確か、リムジンに……。顔を右に向ける。息を飲む。ベットの脇、椅子に腰かけていたのは、あの人。あの時、視界の端に映った美しい人。思わずじっくりと観察してしまう。

 長く豊かな金髪は左右に分けられ、胸元まで垂れていた。毛先は縦方向に緩く優しく巻かれていて、華やかな印象を受ける。後ろ髪は腰まで真っ直ぐに伸びていた。頭頂部の髪がところどころ、跳ねているのはご愛敬。

 背筋をピンと伸ばし、手のひらは重ねて腿の間。ぴったりとくっついた両膝、斜めに流した脚。座り方一つに、その気品が表れている。慈愛に満ちた微笑み。真っ白な制服も相まって、まるで天国に住まう女神さまのようで。

「あら? よかった、気が付いたのね」

 柔らかな微笑みが麗子に向けられる。

 麗子は思った。そっか、私、死んだんだ。この人は、私を迎えに来てくれたのだ。

「……ここは天国ですか?」

「……」

「……」

 その女性は、入り口の前に立っていたメイドに近寄り、耳打ちする。

「……もしかしなくても、頭の打ちどころが悪かったのでは?」

「……そんな、ドクターは何も」

「正常です!」

「あら、よかった」

 女生徒が再び傍に戻ってきた。

「自己紹介がまだでしたわね。あたくしは、杭院羽愛留。あたくしが、貴女のことを守って差し上げます」

 その言葉に麗子の心が微かに揺れる。何もかもすべて、自分の事さえも諦め、何事にも動じなくなったはずの心が。

 期待には、まだ裏切られていないのかもしれない。


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