第55話 動乱
◇記憶と動乱◇
それから俺たちは交流を重ねた後、共に手を組み、周りの社員を巻き込んだ大規模なストライキを行った。
来田社長はこれを問題視し、業務内容は残業はあれどやや楽になった。
まあ怜奈が退社した後、また状況は悪化してしまったんだがな。
それでも俺には怜奈という心の拠り所があったため、切り抜けることができた。
今思えば、俺の初めての人生のターニングポイントはここだったのだろう。
まあこれが原因で、2度目の体験もしてしまったのだが。
まったく…、何故俺の周りにはこんなにも力強い奴らばかり集まって来てくれるのか…。
帰ったら、土田と華音には感謝でも伝えておくか。
そんなことを考えながら歩みを進めていたその時。
"ドーーン"
遠くからいきなり光を伴う激しい爆発音が轟いた。
俺は思わず目と耳を塞ぎ、その場に立ち止まった。
「何が起こった?」
規模的に考えてもかなり大きい。
俺は落ち着いて煙の上がっている方向に目を向けた瞬間、俺の顔は一気に青ざめた。
「あの方角、まさか海城組事務所じゃないかっ!?」
そう思った瞬間、俺は急いで走り出した。
「はぁ、はぁ、はぁ」
ただ方角が同じだけの別の場所であれば良い。
そう願いながらただがむしゃらに、周りの人間を突き飛ばすくらいのスピードで足を動かし続けた。
…だが、現実はあまりにも非情だった。
「嘘だろ…。何だよ、これ…」
俺が足を止めた先に広がっていたのは、建物が崩壊しながらメラメラと炎が上がり、燃え続けている海城組事務所の姿だった。
呆気にとられていた俺だったが、すぐに切り替え、近くに呆然と立ち尽くしている組員に現状を尋ねる。
「おい、これはいったい何があったんだ?」
すると組員は、腕の傷を押さえながら俺の問いに静かに答えた。
「ああ、牧野さんか。俺たちにも何があったか分からない。急に事務所が爆発して、その後黒服の男が組員たちを襲撃しに来たんだ」
「黒服の男?」
俺がオウム返しに聞き返す。
「ああ。何が目的かは分からないが、あのなりはおそらく"裏社会"に関係する奴だとは思うぜ」
「裏社会…」
おそらくは来田関連だろうが、今は思考を凝らしても仕方ない。
まずは人命が第一だ。
「ああそうだ、田嶋と華音はもう避難したんだよな?」
俺が組員に最後の問いを投げかける。
すると男の顔がどんどん暗くなり、俯いた。
「ま、まさか…」
「ああ。組長と姉貴はまだ事務所に取り残されている…」
その言葉を聞いた瞬間、俺はまた急いで走り出した。
今度は舗装された道ではなく、瓦礫が散乱した火災現場に。
「おい待て!流石に危なすぎる」
「馬鹿か!俺はもう大切な奴を失うのは御免なんだよ」
組員の男の制止の声が聞こえたが、俺は気にせず走り続ける。
もう何度目か分からない潜入仕事。
今回は危険度が段違いだが、諦めるわけにはいかない。
俺はポケットからビニール袋を取り出し、空気を入れながら、火事場へと乗り込んでいった。
 




