第52話 明かされる野望
◇他力本願の夜道◇
華音との会話から約4時間、俺は街灯に照らされた夜道を歩き、全ての終わりとも始まりとも言える、あの場所へと向かっていた。
昼間に土田に警告をされた内容。
それを聴く限り、今回の誰かも分からない人物の呼び出しに応じるのは、本来しないほうが良いのだろう。
だが俺は、今その場所へ向かっている。
いや、本能が呼び出しに応じることを選ばせていると言ったほうが正しいのだろう。
一応これだけの危険を犯すのだから、保険はかけてきた。
それは、夜の華音との会話である。
おそらく土田は盗聴器越しで俺たちの会話を聞いていたため、今回俺が行くつもりであることも知っているだろう。
そうなれば土田は、俺を助けるしかない。
それは土田は俺のみの安全を保証したのだからな。
本当は俺からこのトラップを仕掛けようとしたのだが、都合良く華音がその話をしてくれたため、厳密に言えば俺が仕掛けた訳では無いんだけどな。
まあそれはそれとして、この他力本願作戦が俺にある以上俺は安全であるのは確かだ。
本当は何もないことが第一だが、それは心の奥にしまっておくことにしよう。
◇意外な人物◇
それから歩みを進めて約20分、俺は遂に元自宅へとたどり着いた。
家の前に立つと今でも思い出す。
あの光景、匂い、絶望を。
だが、今の俺はそれを乗り越えてここにいる。
止まるわけにはいかないんだ。
そう心を引き締め、俺は震える手をドアノブに置き、扉を開いた。
中に入るとそこには、事件当時とほぼ変わらない形のままで、腐敗しあの頃よりもさらに酷い匂いを放つ玄関があった。
俺は鼻を押さえながら床に踏み入り、リビングへの扉を開いた。
するとそこには想像もしない人物が、汚れた椅子に腰を掛けていた。
「何故お前がここにいる?…西野」
俺はその人物であり元同僚である女。そして事件当日、共に残業をしていた"西野景子"にそう睨みつけながら言った。
すると西野は微笑みながら立ち上がり、口を開く。
「牧野さん、あなたはそんなことを聞きに来た訳ではないでしょう?ここに来たのはすなわち、"真実"を求めている。違いますか?」
「…ああ」
俺は西野の威圧感に耐えつつ、何とか声を振り絞る。
「では私の知っている限りの情報を教えます。まずは私について。私は来田正成を調査するために潜入している"スパイ"です」
「スパイだと?」
俺は思わず問い返してしまう。
常識はずれの奴は土田くらいだと思っていたのだが、まさかこんなにも身近にいたとは思いもしなかった。
「はい。そして来田に勘付かれぬよう、秘密裏に探ったところ、1つの"真実"にたどり着きました。それは、来田正成は警察の一部の集団と手を組み、国家にテロを起こそうとしていることです」
…ただの殺人事件だと思っていたのに、何かえげつない方向へ話が進んでしまっている。
「そして現在来田は警察を裏で操り、将来的にテロを起こす障害になりうる人物を殺害しています。現時点でその殺害された人物は主に、先進技術を扱う企業の職員及び、その家族が大半を占めているんです」
「…それで怜奈が目をつけられたってことか」
「はい。そして来田は将来的に自衛隊上官、政治家、警察関係者などの人物の命も狙っている。そして来田は現在マフィアとの関わりを持ち始めている。これの意味が分かりますか?」
…これだけ言われれば誰でもわかる。
「つまり来田は、日本を拠点に世界的なテロ行為をしようとしている。そしてこれまでの殺害はその前段階にすぎない。そういうことだろ」
「はい。概ねその解釈で間違いないです」
…否定してくれたらどれだけ楽だっただろうか。
「それで、お前はわざわざ俺にその情報を伝えて、何をしたいんだ?」
ただの事件の被害者に、何の利益もなしに情報を渡す。
流石に何の見返りも求めずにそんな事する馬鹿はいないだろう。
俺はそう思い、西野に問いかけた。
すると西野は、衝撃の提案を俺に投げかけてきた。
「理解が早くて助かります。私があなたに求めるもの、それはあなた自身です」
「…は?」
何言ってるんだコイツ?
そんな疑問もつかの間、西野はさらに口を開いた。
「ここまで言ってわからないですか?あなたには、私の所属するスパイ組織、"REBELLION"に入っていただきます」
 




