第48話 待ち人そこにあらず
コンコンコンッ。
華音の部屋の前に着いた俺は、軽く扉をノックした。
海城組の本部はかなり広いので、歩いて部屋に移動するのにも5分くらいの時間を要した。
「誰?」
俺の息が乱れる中、部屋の中から荒げた華音の声が聞こえてくる。
相変わらず俺や田嶋意外の人間に本心を見せない方針を貫いているらしい。
「急に来て悪いな。俺だ」
俺が扉に向けて声をかけると、中から急にドタバタとした音が聞こえてきた。
「牧野さん、どうしたんですか?こんな時間に来るのは組の人だと思っていたんだけど…」
華音はそう恥ずかしそうに俺に声を返した。
扉越しでも赤面している姿が容易に想像ができる。
「入っても大丈夫そうか?」
俺は雑念を吹き飛ばし、華音に問いかける。
「ごめんね…、今かなり恥ずかしい格好をしてるから、少しだけ待っててくれる?」
「そうか…、それはその…、なんかごめんな」
「いや…、私もごめん。…急いで着替えるね」
一瞬にして沈黙が流れた。
危うく何も言わずに部屋に入ってしまうところだったが、流石に俺もデリカシーがあって良かった。
自分で紳士を名乗っているだけのことはあるな。
だが華音の言っていた、"恥ずかしい格好"とはいったい何なのだろうか?
あれほどの恥ずかしがりようなのだ。
相当な格好をしていたのだろう。
パジャマ姿は時間的にないだろうし、ゴスロリとかは絶対に華音は(正直俺的には一度着てもらいたいが)着ないもんな。
もしかしたら下着姿だとか?
さらにもしかすると、風呂上がりそのままの格好だったり?
…いや、これ以上考えるのはやめよう。
三十路手前の男がJKの服を気にするとか、正直言って気持ち悪いしな。
というか俺はもしかすると紳士ではないのかもしれないな。
そんなしょうもないことを考えていると、扉の奥から華音の可愛らしい声が聞こえてくる。
「お待たせしました。もう入っても大丈夫だよ」
俺はそれを聞き、軽く返事をしてから扉を開ける。
だが、俺は扉を開けた瞬間衝撃を受けることになる。
そりゃそうだろう。
だって部屋の中にいたのは、"華音ではなかった"のだから。
俺はあまりの衝撃に少し戸惑ったが、何とか気を落ち着かせ、部屋にいた人物に声をかける。
「何でここにいるんだ?土田」
土田はその言葉を聞くと、ニヤニヤしながら俺に近づいてくる。
「やっぱり来たね。君はやっぱりホストの方が向いてるんじゃないかな?」
「誰がホストだ!」
本日2度目のホストツッコミが出てしまった。
…いや、ホストツッコミなんて普通に生活していればすることないだろ…。
「まあそう言わないでよ。君がホストになろうが変態になろうが、私は温かい目で見守ってあげるから」
「前者はともかく、後者は完全にアウトだろ」
俺は呆れたようにツッコミを入れる。
「だってそうでしょ。君のことだからどうせ部屋の外で待たされている間、服装の想像とかしてたんでしょ」
「うっ…」
図星過ぎて声も出ねえ。
俺が何もいえずにいると、土田は延々と俺の顔をニヤニヤと見つめてくる。
流石にこの状態が続くのはまずいと本能で察した。
「そんなことどうでもいいだろ!それより土田がここにいるということは、何か俺に用があるんだろ。早く本題に入ってくれ」
俺はこの気まずい雰囲気を打破するために、話を切り替える。
するとその声を聞いた土田は、話題をそらされたからか不服そうな顔をしていたが、すぐに真剣そうな顔に切り替え、俺に向けて口を開いた。
「そんなの決まっているじゃないか。君達が今やろうとしていることを止めるためだよ」
その言葉が放たれた瞬間、部屋の中の空気が一気に凍りついてしまった。




