第46話 茶会
◇休息のティータイム◇
外に出た俺は返ってきた"福田"に、変装した姿でを落とした名札を拾ったていで、きちんと返してあげた。
"福田"はもの凄く感謝してくれたが、自分の会社に潜入されていたことを知ることは多分無いだろう。
それから俺達は作戦の練り直しをするため、近くのカフェに立ち寄っていた。
「さっきの潜入で得られた情報なんだが、結果として目ぼしいものは無かった。そこら辺は来田が多分手を回していたんだと思う。だが、こんな謎のメッセージがパソコンに残されていたんだ」
俺は運ばれてきたアイスコーヒーを片手に、スマホに表示された呼び出しのメッセージを華音に見せた。
「そんなものが…、でもそれって罠の可能性の方が高いんじゃないですか?」
驚いた顔をした華音が、俺に意見を述べる。
「確かにな。こんなにも分かりやすかったんだから、もしかすると来田本人が仕込んだ罠かもしれない。」
「だったら提案に乗らないべきですよ!」
華音は珍しく声を荒げた。
だが、俺の考えはもうすでにまとまっている。
「俺は怜奈が死んだときから、できることはすべてやると誓った。だから今回もたとえ罠であっても、死ぬ可能性があるとしても何かしらの情報を皆に残せるんだったら、俺はこの案に乗るつもりだ」
俺が決意を決めた顔で力強くそう言うと、華音は涙を流しながら俺にあることを訴えかけてきた。
「牧野さんの気持ちも分かります。私だって来田に対する恨みはあるから。でもそれと"自己犠牲"は違うと思う。別に私は牧野さんが提案になること自体は止めない。でも死ぬなんて言わないで、生きて帰ってきてくださいよ!」
思わず俺は口が詰まってしまう。
これまで接してきた中で、1番感情をむき出しにしている華音。
しかもその原因が、俺の命についてだなんて。
俺は内心少し嬉しく思ったが、何とか顔に出ないようにする。
「ああ、また華音の周りから1人いなくなるわけにはいかないからな。死ぬ前提で話をしたのは悪かった」
そう言いながら俺は、華音の頭をポンポンと叩いた。
すると華音は赤面しながら
「やめてください」
と言い、頭を軽く振った。
「まあ俺はこの案には乗るが、身の危険を感じたらちゃんと逃げてくる。それは約束するから安心してくれ。本当に困ったときはメールでも何でも送る」
「分かりました。約束ですからね」
華音と俺は口約束をした。
盟約とまではいかないが、俺と華音の間の1つの取り決め、破るわけには行かないと思った。
それから俺達は、ひとまず気持ちを落ち着かせるためにも、ティータイムを続行することにした。
互いに雑談を繰り広げながら、楽しく笑い合った。
そんな中で、俺はふと気になったことを華音に聞いてみた。
「そういえば華音、華音っていつまで敬語で話してるんだ?俺の前くらいでは甘えてもいいんだぞ」
俺はからかうようにそう言った
考えてみれば、会った当初からずっと敬語を崩していないため、少し距離感を感じていた。
華音は年上を敬いたいのかもしれないが、俺にとって華音は子供みたいなものだ。
たまに見せる幼い一面を、もっと見せてくれてもいいのに。
まあこの提案も、どうせ大人ぶってかわされるんだろうけどな。
すると華音は、今日何回目かも分からない赤面を再び俺に見せ、口を開いた。
「じゃあお言葉に甘えさせてもらうね…」
…え?
予想外の展開に驚きを隠せず固まってしまう。
まさかの甘えモード!?
「あれ?やっぱりだめだった?」
華音は不安そうに俺の顔を覗く。
「べっ、別に大丈夫だぞ。俺も華音と打ち解けられて嬉しいしな」
「そう…?だったらこれからもタメ口で話すね…」
華音は恥ずかしそうにそう呟いた。
あまりにも可愛すぎたが、流石に引かれると思い、俺はこの思いを封印する。
まあいつこの封印が解かれるかはわかったもんじゃないけどな。
それから少し気まずい雰囲気が流れたが、俺達の楽しいティータイムは続行された。




