第45話 消えた男と謎のファイル
会社に入るとそこには、俺にとっては見慣れた、ただっ広いエントランスが広がっていた。
ブザーが鳴らないということは、おそらく潜入は成功ということだろう。
俺は会社勤め時代を思い出しながら、エレベーターでデスクのある階まで向かった。
俺の記憶では、"福田"と俺のデスクは隣同士で、いつも何かと話していたのを覚えている。
まさか俺が、"福田"になるとは考えてもいなかったが。
エレベーターから降りて少し歩くと、"福田"のデスクは依然と変わらぬ場所にあった。
だが変わっているのは俺のデスクがあった場所だ。
俺は勝手に辞職された扱いになっているため、跡形もなくその場所はなくなっていた。
まあ特にショックだとかそういう感情は湧いてこない。
会社の人自体は悪くなかったが、何せトップが来田だからな。
まあ今はこんな私情どうでもいい。
まずは情報を集めないとな。
そう思い俺は"福田"のデスクに座り、パソコンをログインした。
パソコンのどこに秘密が隠されているかは分からないが、ひとまず俺が田嶋から教わったルートで、周りにバレないように探ってみた。
しかし、どのルートでどのツールを使っても、パソコンは有用な情報を吐いてはくれなかった。
やはりこんなところにも来田の注意深さがでているのだろう。
そう思い俺は一旦すべてのタブを閉じて、新たな作戦を練ろうとした。
しかしその瞬間、パソコンのホーム画面にある、"謎のファイル"が目に入った。
ファイルの題名は"mt3kmkj"と入力されている。
周りには普通の題名なのに、1つだけタイピングミスをしたようなファイルを見て俺は、思わずダブルクリックをしてしまった。
罠だとしても分かり易すぎる。
普段なら絶対に押さないのに、本能的に手を止められなかった。
すると少しのロードが済んだ後、パソコンの画面に"謎のQRコード"が表示された。
逆にQRコードしか表示されていないため、俺は少し不安になった。
だが俺は、恐る恐るスマホを取り出して、それを読み込んでみた。
するとそのスマホの画面に表示されたのは、衝撃的なものだった。
ーー今日の深夜0時、お前が牧野怜奈と過ごしていた場所に1人で来い。ーー
たった一文だけが表示されたのだ。
「は?」
俺はつい口に出して困惑してしまった。
すると遠くから、俺と"福田"の同期の"寺井"が、
「何かあったのか?」
と言いながら近づいてきた。
俺は反射的にパソコンのタブを閉じ、スマホをポケットにしまった。
「ごめん、ちょっと間違えただけだから大丈夫だよ」
俺は怪しまれないように、何とか応答する。
しかし、会社のパソコンに辞職したはずの俺の名が何故隠されていたんだ?
そして、何故こんなにも分かりやすい位置においてあるんだ?
もしかすると来田は、"俺が今日潜入すること"を知っていた?
俺の頭で、数々の仮説が交差する。
俺は、さらに考察を加速し始めたところで、華音からメールが送られてきた。
何だろうと思い、メールを開いてみる。
ーー時間的にもうすぐターゲットが帰ってくると思う。急いで戻って来て。ーー
俺はこのメールを見た瞬間急いで飛び上がり、
「トイレ行ってきます!」
と言いながら急いでエレベーターまで張り、エントランスまで戻った。
正直色々考えたりすることが多すぎて混乱してきたが、俺は周りに怪しまれないよう再度注意しながら、会社を後にした。




