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不倫盟約  作者: 鍵香美氏
第5章 動乱編
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第44話 エールと感謝

   ◇2度目の潜入◇

 変装を終えた俺達は、そのまま会社近くの木陰に待機していた。


 というのも、来田は外部の人間の接触を嫌い、会社に入ることのできる人間も絞ってしまっているため、適当な顔に変装しても潜入はできないからだ。

 だったら夜遅くに潜入すれば良いと考えるかもしれないが、それも駄目だ。

 来田はここも手を回しており、ブラック企業特有の"遅くまで残業"を会社員にさせ、特に金もかけず会社のセキュリティを維持しているのだ。

 窓も防弾の特殊仕様となっているため、簡単には侵入ができない。

 合間を見て入り口に忍び込もうとしても、会社員の名札にしか入っていない"ICチップ"というものが無ければ、ブザーが鳴ってしまう仕様になっているらしい。 

 思えば俺が入社したときも、名札だけは絶対に手放してはならないと、先輩から口を酸っぱくして言われた覚えがある。

 だから俺達は、会社の外で外回りから帰ってくる社員を待っているわけだ。


 まあ俺も当てもなく待っているわけじゃない。

 何故なら俺の同期の"福田"が、確かこのあたりの時間に外回りから帰ってくるはずだからな。

 今はそいつらを待っている状況だ。

 

「いいか華音、ターゲットが来たら築かれないように素早く名札を奪うんだ。そして奪った後は俺が上司に変装した偽の指示を送り、外回りを継続させる。分かったな」


 俺はある程度の作戦を華音に口頭で伝えた。

 華音は軽く頷き、俺に同意の意を示す。

 この作戦は、片方が上司に変装する関係で、実際に会社に潜入するのは1人ということになる。

 正直1人での任務は緊張するが、別に変装での潜入は初めてではないため、ある程度は頭に入っている。

 俺はドクドクと鼓動する胸に手を当てながら、その時を待った。


 すると30分くらい待ったところで、ターゲットである"福田"が歩いてきた。

 俺と華音は互いに見慣れぬ顔同士で頷き合い、作戦決行の合図とした。

 まずは男に変装した華音が、走りながら"福田"に接触する。

 すると"福田"は床に倒れ込んでしまったが、その隙を突いて華音は華麗に名札を首から奪い取った。

 過去に盗っ人でもやっていたのではと疑うほどの手際である。


「すまねえ、大丈夫か?」


 ボイスチェンジャーの渋い声で謝る華音。

 ぶつかられた奴の中には、慰謝料を求めるチンピラじみた奴もいそうに思うが、"福田"に至ってそれはない。


「全然大丈夫ですよ。僕も周りを見ていなかったのですみません」


 そう、"福田"は気弱で優しい性格をしている男なのだ。

 俺も働いていた時代は、よく同僚や上司から仕事を押し付けられる姿を見たものだ。

 そのたびに俺が声をかけ、仕事を手伝って一緒に片付けたものだ。

 いわゆる人生損しているタイプの人間だな。

 そんないい奴を標的にするのは申し訳ないが、目的のためだから仕方ない。

 俺は華音が立ち去るのを見て、すぐに"福田"の元へ駆け寄った。


「福田くん、ちょっといいかな!」


「あっ、長嶋部長ですか。何かありましたか?」


 "福田"の声でうまく騙せていると確信した俺は、さらに話を続ける。


「申し訳ないんだが、加藤電工の社長がいきなり我々と今度のプロジェクトについて話したいと連絡が来たんだ。至急だが今から向かってくれないか?」


「そうなんですか。では今から行ってきますので、会社に僕が向かったと伝えておいて下さい」


「ああ、任せたぞ」 


 俺がそう言うと、"福田"はまんまと走り去ってしまった。

 それを確認した俺はまたすぐに木陰に向かい、そこに隠れている華音に名札を手渡してもらった。


「ありがとな、やっぱり緊張しただろ」


「いえ、演技するのは得意なので別に大丈夫でしたよ」


 俺が心配すると、華音は涼しい顔で俺に言葉を返してきた。

 演技に慣れているのは自分を普段から隠しているからだろうが、まあそこは触れないでおく。


「なら良かった」


 俺はそう返答しながら、次なる変装の準備をする。

 "福田"の顔を模した人工肌を肌につけ、ボイスチェンジャーもその中に隠す。

 服装や髪型等も整えて、最後に名札をつける。

 これで準備は完了だ。


「じゃあ行ってくるから、何かあったら連絡しろよ」


「はい…、その、頑張ってくださいね!」


 華音は赤面しながら、震えた声で、俺にエールを送ってくれた。

 

「ああ、ありがとな」


 まさか華音がこんな顔をするとな。

 たまに見えるまだ幼い部分が、俺のやる気を触発させる。

 そう思いながらも俺は感謝の意を示し、覚悟を決めて会社に潜入した。




 

 

 






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