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不倫盟約  作者: 鍵香美氏
第4章 潜入編
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第39話 トラウマ

   ◇少女の恐怖◇

 「謎の人物、そいつに心当たりは無いのか?」 


 気になった俺は、震える華音の手を握り、そう尋ねてみた。

 すると華音は、その手を握り返し、震える声こそ直らなかったが、俺の問に答えてくれた。


「分からないです。知らないわけではないんでしょうけど、思い出そうとすると、いつも苦しくなるんです。多分私の本能が、その人物を思い出すことを拒絶してるんだと思います」


 拒絶か。

 正直分からなくもない。

 俺自身、大切な人の命を失う経験をした。

 もしかすると、それがトラウマになっていたかもしれない。

 だが、俺が華音のように心を塞がなかったのは、土田の存在があったからだ。

 そう考えると華音は、心の支えが当時はなかったと考えられる。

 つまり、これらから考えられる1つの仮説が1つある。


「華音の母親殺害と、関係がありそうだな」


 俺がそう呟くと、華音は何も言わず、静かに頷いた。

 肯定と受け取っていいだろう。

 とすれば、来田正成と関係性がある人物の可能性が高いから、おのずと人物は限られてくるだろう。

 来田と関わりが深い警察やヤクザの可能性もあるし、濱島団の連中の可能性も捨てきれない。

 ただ、この人物が分かれば、来田正成の真相に一歩近づけるかもしれない。

 俺にとっても、華音にとっても、おそらく必要なことだろう。

 であれば、これを調査しないではないだろう。

 そう思った俺は、華音にさらに疑問をぶつけてみる。


「その人物はやっぱり来田関係だよな。何か、どこの奴らが怪しいとかはあるか?」


「それも分からないです。私が若い頃の記憶だし、事件当時のこともあまり覚えていない。だけど、恐怖心だけは、私をつかんで離してくれないんです。」


 まあしょうがないか。

 何も情報を得られないのはきついが、仕方のないことだ。


「なるほどな。だとすれば、この手の話は田嶋に直接聞く方が良さそうだな」


「はい、そうした方がいいと思います」


 俺が提案をすると、華音は頷きながらそう答えた。

 正直、田嶋も事件のことは探られたくはないと思うが、今回ばかりは仕方がない。


 華音がこれからも過去を引っ張らないために。


「それじゃあ、落ち着き次第、明日にでも聞きに行くか。あまり気負いすぎるなよ」


 そう言いながら俺は、部屋のドアノブに手をかけ、部屋から出ようとした。

 しかし、華音の、


「ちょっと待って!」


という声に、呼び止められてしまった。


「どうした?」


 俺はその声に少し戸惑ったが、何か伝えたいことがあるのだと思い、振り返って華音の顔を見た。

 その華音の顔は、頬が赤くなっていた。

 その顔を見た瞬間、俺はある程度言われる内容を察した。


「牧野さん、私の胸、見てませんよね?」


 華音の口から放たれた言葉は、俺の予感を見事に射抜いてみせた。

 まあ疑われるのもしょうがないか。

 だが、これからも関わりなあるであろう娘に、嫌な印象を持たれるのは避けたい。

 だから俺は、できる限り焦りのない声で、


「ああ、別に見てないぞ」


と言った。

 我ながら紳士的な対応かつ、誤解を招かない返答ができたと思う。

 しかし、華音の返答は、俺の想像のはるか斜めをいく言葉だった。


「いや、絶対に見ましたよね!私のパジャマちょっと脱げかけてますし!」


「いや知らねえよ!寝てる間に脱げたんだろ!」


 華音の言葉に、つい反射で強く返してしまう。

 すると華音は、涙目になりながら、


「うぅ〜…。私、小柄な体格がコンプレックスなのに、見られちゃった〜!」


と訴えてきた。

 

「いや、コンプレックスなんて知らねえよ!それに、三十路手前の男が、高校生に手を出すわけがねえだろ!」


 俺は、たまらず反論する。

 

 それから華音は、あれこれ理由をつけて、俺を変態と決めつけてきて、俺の弁明タイムが幕を開けた。

 誤解を解くのに1時間以上はかかったが、華音の表情が、少し明るくなったように見えたため、少し安堵し、部屋を後にした。

 


 

 





 


 

 


 




 



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