第37話 正体と解決
◇正体◇
俺が男に問うと、場は静まり返った。
その間が長くなればなるほど、俺は不安になってくる。
当たり前だ。
本当に感覚だけで、根拠も何も無い仮説を男にぶつけたのだから、外していた時の恥ずかしさを想像すると、嫌でもこの空間から抜け出したいと思うものだ。
そんな気持ちを隠しながら、男の様子を警戒していると、遂に男が口を開いた。
「なぜそう思った?」
男はワントーン下がった声で、俺に疑問を返してきた。
それに俺は、頭に思った通りのことをそのまま返す。
「なんとなくだ。お前の雰囲気が何処となく土田に似ていたからそう思っただけだ」
その声を聞くと男はニヤリと笑い、華音を俺の方に軽く投げてパスしてきた。
俺がなぜ返したか疑問に思っていると、男が次の瞬間、皮膚から皮のような物をを剥がし取り、カツラを脱ぎ捨て、その本当の正体をあらわにした。
茶髪のショートヘアーにモデルの様な体格、俺の見慣れた女の姿がそこに出現した。
「正解!君ならまんまと騙されると思ったけど、どうやら甘く見すぎていたみたいだね」
おまけに聞き慣れた声まで聞こえてきたため、俺は一瞬にして肩の力が抜け、ため息をつき、
「やっぱりお前か」
と力なく呟いた。
俺のここまでの緊張感を返してほしい。
そう思っていると土田は、完全に力が抜けそうになっている俺に、この様な事が起きた理由を話し始めた。
「いや〜、君がその女のお世話係になるって聞いていたから君に務まるか確認したかったんだよね。だから私が田嶋魁哉に話を通して、その女を連れ去ったんだよ。まあ純粋に景栄高校の生徒の1人に、学校爆破を企む奴がいたから、その生徒を制圧するついでにみたいなものだけどね」
その話を聞いた瞬間俺は、また土田と田嶋にはめられたのかと、少し憂鬱な気分になってしまった。
何かしれっと爆弾魔を未然に阻止していることは、気にしないことにしよう。
そんな俺の姿を見た土田は、ゲラゲラと笑いながら、口を開く。
「まあそんなに気分を落とさないでよ。今回の確認で私と君は本来、このまま決闘する予定だったんだからね。正体に気づけただけでも幸運だと思いなよ」
まじかよ。
流石に確認だから土田も手を抜くとは思うが、仮説が的中してなければ、俺はボコされていたところだったのかよ。
計画した段階で田嶋も土田も、もう少し配慮をして欲しかったな。
…ん、でもちょっと待てよ。
確かに俺の腕を確認するために、この作戦は最善策だったのかもしれない。
だが、わざわざ田嶋の実の娘である華音に手を加える必要は果たしてあったのか?
今でもなお華音は気絶しているし、手を加えるにしても、もう少し優しい手段はあっただろう。
じゃあ何故こんな手洗い真似をする必要があった?
俺は気になりすぎたので、思い切って土田に聞いてみることにした。
「土田、俺の腕の確認の為の作戦だったのは分かったんだが、華音にわざわざ手を加える必要ってあったのか?」
俺の疑問を聞くと土田は、
「いや〜…、あの女が君に好印象を抱いているって聞いたから、ついつい手を出しちゃったんだよね。しかも、ちょっとばかし強めに…」
と、珍しく申し訳なさそうに答えた。
強めって…。
嫉妬心からだといって、流石にスタンガンを強めに当てるのはよろしくないんじゃないか。
そう思いながらも俺は、呆れたような声で土田を軽く叱っておき、華音をおんぶして海城組の本部へと帰った。
華音を連れて帰ろうとした時、土田が少し嫉妬じみた顔をしていたが、これは土田への罰だと思い相手にせず、そのまま何も話しかけることもなく歩き去ってやった。
土田もその空気を察し、バツが悪そうな顔で、そのまま仕事へと戻って行った。




