第34話 朝と思春期
◇いつもと違う朝◇
朝の静かな廊下、そこを歩き俺は華音の部屋の前まで来た。
最近田嶋の発言から分かったことだが、華音は見た目に反して現役JKらしい。
そのせいか、余計緊張する。
見た目から見て、中学生ぐらいだと思っていた事は黙っておく。
俺は緊張する気持ちを抑えながら、華音さんの部屋の扉をノックする。
コンコンコン
その音を鳴らした瞬間、何故か部屋の奥から
「ひゃあっ!」
という声が聞こえてきた。
びっくりさせてしまっただろうか?
そう考えていると、また部屋の奥から声が聞こえてくる。
「ちょっと待っていてください!」
この声の主は、華音だろう。
始めて会った時の恐ろしい立ち振舞が、想像できないくらいの可愛い声だ。
それから少し経つと扉が開き、中からパジャマ姿の華音さんが出てきた。
「お待たせしました」
俺はあまりの可愛さに、声を失ってしまった。
まさかパジャマ姿と声が、ここまでの破壊力を生むとは思っていなかった。
そのまま俺が何も喋れないでいると、華音から、
「あの〜、私の顔になにかついてます?」
と言われてしまった。
「いえ、何もついてないですよ!」
俺は不安な気持ちにさせてしまったと思い、すぐにその疑問を否定する。
どうやら顔を見すぎて不安にさせてしまったようだ。
可愛いから見惚れるのも仕方ないと思うが。
すると華音は安心した顔をし、続けて俺に疑問を投げかけてきた。
「では、何かようですか?」
「いえ、田嶋に言われて起床確認をしに来ただけですよ」
俺が答えると、華音は少し頬を赤らめ、呆れたようにこう言った。
「流石にこの歳で寝坊はしませんよ。まったく父さんは過保護ですね」
思春期ならではの発言だな、と思いながらも俺は、
「まあそう言ってあげないで下さい。どんな歳になっても、親は子供が心配なものなんですよ」
と言い、一応父親としての田嶋を立ててやる事にした。
それを聞くと華音は、一瞬ムスッとした顔を見せたがすぐに戻して、再び俺に笑顔を向け、
「まあそれはそれとして、牧野さん、わざわざありがとうございます。私ちょっと準備してきますね」
と言い、再び部屋に戻っていってしまった。
華音なりにも、色々思うことがあるのだろう。
ここは何も聞かないでおく。
それから大体30分後、制服姿に着替え、髪も整えられた華音が出てきた。
正直さっきの姿も可愛かったが、今の可愛さは破壊力がさらに上がっている。
「お待たせしました」
部屋から出てきた華音は、律儀に礼をし、俺に声をかけてくれた。
「いえ、そこまで待ってないですよ」
俺が焦りながら返答すると、華音は不服そうなかおを浮かべながら、
「さっきから何挙動不審になってるんですか?それと、敬語やめてください。私よりも断然年上なんですから」
ガハッ!
華音の言葉の刃が俺の心に突き刺さる。
キョドってる…、俺の方が断然年上…。
もうすぐ三十路の男に、これは破壊力が高すぎる。
「ああ、悪い。ちょっと考え事をしてたら返答を迷っただけだ。敬語はこれから気をつけるよ」
俺は精神的に追い詰められながらも、なんとか言葉を返した。
すると華音は、
「そういうことでしたか。ではこれからはお願いしますね」
と笑顔を向けて俺に言葉を返してくれた。
その笑顔が辛い。
そう思いながらも俺は、華音が作った朝食を一緒に食べ、登校を見送った。
田嶋から、家事は華音にやらせろと言われていたので、やらせてみたが、まさか一緒に食べるお誘いをされるとは思わなかった。
まあ華音から上目遣いで提案されたら、断れるわけないんだけどな。
華音の登校を見送った後、俺は華音の部屋を掃除し、廊下の掃除をして、1日を過ごした。
トイレ掃除から解放されても、暇な時間は結局掃除かよ。
俺は、下がる気分をなんとか抑え、床を雑巾で磨いた。




