第32話 少女の独り言
本心を隠す少女の、語られる本音…
◇少女の本音◇
私の名前は田嶋華音…いや、本名は違う。
"坂倉静華"、それが私の本当の名だ。
わけあって今は、正体を隠して生活している。
私は若い頃、ひどい事件に巻き込まれたらしい。
どうやらその事件の真犯人を探るために、本名を隠す必要なあるらしい。ここまでは父から聞いている。
だが私は、幼い頃の事件の内容を"覚えていない"。
だから私は、その事件がどんなものなのか、どうして私は本能的に、自分の本心を本能的に隠すのかが分からなかった。
そう、あの時までは。
私が夜道で出会ったあの男、佐野雄也…いや、本名は"牧野大気"だったかな。
彼に出会った瞬間私は、不思議な感覚がした。
ヤクザ事務所の組長の娘として、周りからおそれられる人間を演じていた私に対して彼は、全く恐れる素振りを見せなかった。
私はこれまで恐れられてきたのに、彼だけは私を分かってくれるかもしれない。
そう思った。
だから私は、父に彼にもう1度会ってみたいと伝えてみた。
この運命を離してはならないと思ったから。
しかし、そんな矢先、ある出来事が起きた。
ある日、父に呼び出されいつも通り組長室に行くと、父に
『少し待っていろ』
と言われた。
何かあるのだろうか?また仕事の相談だろうか?
そう思っていた。
だが、しばらくして現れたのは衝撃の人物、"牧野大気"だった。
父は私の願いを叶えてくれたのだろうか?
そう思っていたのに、目の前で繰り広げられたのは、私も知らない父の"昔の話"で、その中にはあの事件の内容も含まれていた。
正直混乱した。
今まで離されてこなかった事が、予告もなしに一気に暴露されたのだから当然だ。
だが私は、また本心を隠してしまった。
本当は公開された私の母を殺した犯人、"来田正成"を恨んでしまった。
今すぐにでも殺したいと思ってしまっていた。
だが私は、『仲間外れ、ずるい!』という、今考えると物凄く恥ずかしい言葉で誤魔化してしまった。
それもこれも全部、牧野さんのせいだ。
彼がいたせいでつい焦ってしまった。
いつもだったらもっと冷静に、クールに対応できたはずなのに…。
そこから話の流れは、牧野さんを私のお世話係にする方向に舵が切られた。
正直今年で17歳になる私にお世話係をつける必要はないのでは?
そう思ったけど、反論はできなかった。
これが父の善意であることも分かってたし、何より私が牧野さんに興味が湧いてしまっていたから。
彼の持つ恐れを知らない優しい目に、もう1度包まれてみたかったからかもしれない。
そんなこんなで決まった、明日からの"牧野さんとの"生活。
私は、『早く明日にならないかな』なんて考えながら、布団に潜り、眠りについた。
 




