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不倫盟約  作者: 鍵香美氏
第4章 潜入編
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第31話 偽りと真実

   ◇真実と仕事◇


 「それから俺は、自らの名前を"田嶋魁哉"と偽り、海城組を立ち上げたってわけだ」


 田嶋…いや、坂倉圭太から明かされた壮絶な過去。

 それは、俺と近い内容のものだった。

 犯人の動機も、真犯人の名前も、家族の死に気づくシチュエーションも。

 田嶋から感じた"俺と似た何か"の正体も、ここからくるものなんだろうな。

 そして明かされた、"海城組"の誕生日秘話。

 おそらく話に出てきた女性は、土田なのだろう。

 …いや、待て。

 田嶋は見た感じ年齢は40代後半から50代前半辺りだろう。

 だとしたら、土田の年齢は見た感じ20代前半。

 それを考えると、話の辻褄が合わない。

 そこを疑問に思った俺は、思い切って田嶋に聞いてみることにした。


「組長、それで話に出てきたその"女"って、いったい誰なんですか?」


 その言葉を聞いた田嶋は、少し渋い表情をし、俺の方を向き直し、


「お前のよく知る人物の母親だよ。もうこの世にはいないけどな」


 俺のよく知る人物、つまり土田の母親か。

 道理で性格が土田に似ているわけだ。

 …待てよ。

 今しれっと流したけど、田嶋がさっき、"お前のよく知る人物"と言った。

 じゃあなんで田嶋は、"土田と俺が繋がっている"事を知っているんだ?


「組長、まさか…」


 俺が恐る恐る口を開くと、田嶋はニヤリと笑い、こう言った。


「ああ、お前の想像している通り、俺はお前と土田花乃が繋がっている事を知っているぞ。牧野大樹くん」


 俺はその声を聞いた瞬間、血の気が引き、気づいたら警戒態勢に入っていた。


「いつから気づいていたんですか?」


 俺が警戒態勢を保ったまま尋ねると、田嶋は、


「いつからって、最初からに決まってるじゃねえか。なんたって俺は土田さんに、お前の潜入を温かく見守るように言われていたんだからな」


と、衝撃の一言を発した。

 田嶋と土田は最初からに繋がっていた。

 どうやら土田は俺をはめたらしい。

 まあ田嶋は俺との面会の時、俺を精神的に追い詰める言い方はしてなかったしな。

 面会に来たのも、来田と作戦上の繋がりを結んでいたからだろう。

 そう思うとこの真実は腑に落ちた気がした。


「だが田嶋、何故土田はこんな事を俺にさせる必要があったんだ?田嶋と土田が協力関係にあるのなら、別に潜入はいらなかったんじゃないか?」


 俺が当然の疑問を投げかけると、田嶋は、険しい顔をしながら口を開いた。


「多分お前に、"経験"を積ませたかったんだろうな。来田と今後関わるなら、お前自身に状況処理能力が求められる。その力を養う為に、土田さんはそうしたんだと思う」


 なるほどな。

 さっきの田嶋の話を聞いて、来田のヤバさを再認識させられた。

 だとしたら、たしかに今の俺は未熟すぎるからな。

 教育は必要だろう。

 そう納得していると、横から突然の乱入者"華音"が俺達の間に入り、


「仲間外れ、ずるい!」


と言ってきた。

 さっきからずっと俺達の話ばかりだったからな。

 仲間外れに感じても仕方ないだろう。

 俺と田嶋はひたすら謝り倒し、なんとか機嫌を直させることに成功した。

 それからしばらくして、俺は安堵している田嶋に対して、ある1つの疑問を投げかけた。


「それで、俺の潜入作戦は儚く消滅したわけだが、さっき言ってた、華音さんのお世話係ってどういう事だ?」


 だってそうだろう。

 俺の潜入はもうバレてるんだし、ここで撤退しても良いはずだ。

 なのに田嶋は、また俺に新しい仕事を与えようとしている。

 しかも大事な一人娘のお世話係を、会ったばかりの俺に。

 すると田嶋は、俺の耳元でヒソヒソとこう言った。


「今まで自分の感情を出さなかった華音が、お前と始めて会った時の話を永遠に俺にしてくるんだ。よほどお前が気に入ったらしいんでな。採用してみることにした」


 まじかよ。

 なんでこの小動物系女子は、俺に興味を示したんだ?

 そう思いながらも俺は、田嶋の耳元に近づき、もう1つの疑問をぶつける。


「それって土田に許可取ったのか?」 


 すると田嶋は、


「渋々だったけど、許可は貰えたぞ」


と言ってきた。

 まじかよ、次土田と会う時が怖いな。


 そう思いながら俺は、田嶋親子と少し話をした後、組長室を後にし、土田の家に帰った。

 

 明日からは華音のお世話係。

 緊張するがやるしかない。



 

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