第27話 盟約の潜入
◇久しぶりのような安心感◇
しばらく歩いて、土田の家に返ってくることができた。
今日は1日色々ことに巻き込まれたからな。
土田に愚痴でも聞いてもらいたい気分だ。
そう思い玄関の扉を開けると、俺はすぐにリビングに向かった。
しかし、土田の姿はそこに無く、テーブルにある手紙が置いてあった。
その手紙には、
『初仕事お疲れ様。大変なことも多かったとは思うけどよく乗り切ったね、偉いぞ。夕食は冷蔵庫の作り置きを温めて食べてね』
と、書いてあった。
自分の仕事も忙しいのに律儀なやつだな。
だけど、この気遣いが本当にありがたい。
胸が張り裂けそうな緊張感、雑用で溜まるストレスの数々。
社会人では味わうことのない経験の不安を、土田が癒し、慰めてくれている。
純粋にそんな気持ちになった。
そう思い冷蔵庫を開けると、作り置きのラップの上にも置き手紙がある事に気がついた。
いったい何だろうと思い、それを確認すると、
『女の匂いがする。浮気を許さないよ』
と、書かれてあった。
忙しい時でもからかうことを忘れないなんて、大した奴だ。
それに、すでに盟約を結んでいるんだから、そんなことはありえない。
あと、今日関わった女なんて田嶋華音ぐらいだしな。
何故か土田はこの場にいないのに、心の中で弁解してる俺。
なんだか恥ずかしくなり、俺はそそくさと食事を温め始めた。
◇潜入2日目◇
潜入2日目。
今日も変わらず、便器磨きだ。
正直毎日これをやっているのはかなり苦痛だ。
だがこれも玲奈のため、今は亡き両親のためだ。
そう思い、俺は目の前の汚れと戦い続けた。
◇潜入10日目◇
潜入を初めて、10日が経過した。
今のところは進展無しで、毎日便器を磨いているところだ。
正直10日もやっていると、謎のプロ意識が芽生えてくる。
取れにくい汚れはどの洗剤を使えば良いのか。
匂いがつきにくくなる為にはどうすれば良いか。
色々考えてやるのが楽しくなってきた。
元々俺は、目の前のことを細かく分析してやるタイプだからな。
そう思いながら、今日も仕事を終えて帰ろうとすると、何故か下っ端組員に呼び止められた。
「おい佐野!組長がお呼びだ、今すぐ迎向かえ!」
まさかの田嶋直属のお呼び出し。
いったい何の用事だろうか。
考えられるのは昇進だが、
…まさか正体がバレたか?
いや、そんなまさか…。
そんな不安を抱えながら、俺は田嶋の元へ向かった。
 




