第1話 日常の崩壊
崩壊の始まり、
俺は牧野大樹、29歳。
IT企業で働く普通のサラリーマンだ。
妻の怜奈とは結婚してもう6年になる。
怜奈とは、社内恋愛で結婚したため、妻は寿退社し、専業主婦をやってくれている。
子宝にこそ恵まれていないが、俺たちの生活は幸せそのものだった。
家を出るときは必ず言葉を交わすし、夜の方も非モテが羨むような事をしている。
そんな幸せな生活にヒビが入ったのは、2ヶ月前のことだった。
◇2ヶ月前◇
俺はいつものように家を出て、会社に向かった。
そして、いつも通り会社で仕事をこなし、深夜1時頃に家に帰ってきた。
俺の働く会社はそこそこブラック企業だったし、妻とも会社の愚痴で仲良くなった。
だから今日も、いつも通り残業をこなして帰ってきたのだ。
「ただいまー」
そう言い玄関の扉を開けると、妙に嫌な匂いがした。
例えるなら、魚でも捌いた後のような匂いだ。
実際はそれよりもさらに生々しい匂いを放っている。
何事かと思い、俺はキッチンへと走った。
きっと料理をして失敗しただけだろう。
そう信じたかった。
だが、現実はそう甘くなかった。
キッチンにあったのは、包丁で滅多刺しにされた妻、怜奈の姿だった。
「嘘だろ…」
あまりの衝撃にその言葉しか出なかった。
ひとまず警察に連絡しようと、スマホを取ろうとした。
だが、俺は手が震えてスマホを握ることができなくなってしまった。
「怜奈…、嘘だろ…。俺をおいて行かないでくれよ!」
情けない声で泣き叫んだ。
「うわぁーーー!」
それから30分くらい経っただろうか。
俺は、いったん落ち着き、警察に連絡することができた。
焦っていてまともなことは話せなかったが、何とか警察に現状を伝えることには成功した。
20分後に警察が来て、約2時間にも及ぶ、現場捜索が始まった。
俺はそれを待っている間、ただ泣くことしか出来なかった。
いや、多分これはどこにもやれない怒りと苦しみ、そして悲しさ、それを抑えるために、現実逃避のために流されているものなのだろう。
しばらく経つと、警官が俺のもとに近づいてきた。きっと、
『事情聴取を行うので、署にご同行を願います』
とでも言われるんだろうなと思った。
だが、警官の口から放たれた言葉は、想像を絶するものだった。
「この事件、あなたが犯人の疑いがあります。署に同行していただきますね」
…は?俺が犯人?そんなわけ無いだろ。
だって俺は帰ってきたら、妻が…。なのに何で…。反論しないと…。
「あの!俺はやってな…」
「同行願えないなら、公務執行妨害で逮捕しますが、いかがなさいます?」
俺が言葉を言い切る前に、話を遮ってきた。
しかも俺が逃げられないような言葉を吐いてきた。
どう仕様もないじゃないか。
その後俺は、流されるがままに警察署へと連れて行かれた。