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彼女の母親との対面

「鴻上くんは、ドリア食べれる?」


「はい、食べれますし、好きです」


「それは良かった。さっ、どうぞ召し上がれ」


 明人さんの得意料理はどうやらドリアらしい。


「いただきます……美味しいです」


「それは良かった。料理は基本なんでも作れるが、特にドリアは得意なんだ」


「私のお父さんの作る料理はどれも美味しいのですよ」


「嬉しいことを言ってくれるじゃないか。瑞季もここ最近料理を練習して上達してるから頑張るんだぞ。それで将来、鴻上くんに『お帰りなさい、あなた。夜ご飯ができたわよ』と言って食べさせるんだ」


 中々、テンションが高いお父さんだな。俺のお父さんと正反対だ。


「もう、お父さん。静かに食べてください」


「あはは、怒られちゃたよ。けど、瑞季は、鴻上くんにべた褒れみたいだし、結婚するんだろ?」


 静かに食べてくださいと娘から言われたことを聞いていなかったのか明人さんのお喋りは止まらない。


「け、結婚なんてまだ早いです!」


「まぁ、それもそうだね。瑞季が、これまで友達を家に連れてくることなんてなかったから瑞季は相当君を信用しているみたいだ。これからも娘を頼むよ」


「はい、頼りないですが、彼女を大切にします」


 そうハッキリ断言すると隣で食べる瑞季の顔が赤くなっていた。


「私の奥さんは、娘には厳しくてね。もし、結婚を認めないなんてことになっても私が説得するから」


「奥さん……」


 俺がそう呟くと明人さんは、瑞季のお母さんのことを話してくれた。


「私の奥さんである雪乃さんは、昔から瑞季に過度な期待を持っていてね。娘に無理させてるんじゃないかと私が言ったら雪乃さんは、瑞季と一度距離を置くと言って今は実家に住んでいるんだ。だから去年から瑞季と2人暮らし」


 明人さんの言葉に瑞季は、驚いていた。自分のことが嫌いで家を出ていったと思っていたが、実は違っていたことに気付いて。


「お母さんは、私のことが嫌いでお婆様の家にいったわけではないのですか?」


「ん? 雪乃さんが瑞季のことを嫌いなんて聞いたことないよ」


「そう、なんですか……?」


「雪乃さんの瑞季への期待は大きすぎる。頑張るのもいいけど無理しなくていいからね」


 そりゃ、見てくれないわけだ。それは、自分がお母さんの期待に応えられる人にはなれていないのだから。そう思った瑞季は、ずっと不思議に思っていた疑問にに答えが出て、納得していた。


 ご飯を食べ終えた後、帰ると言ったら瑞季が途中まで送ってくれた。


「碧くん、やっぱりお母さんに聞くのはやめましょう。お母さんに聞いても無駄です。お母さんが思うような私でなければ多分話してはくれません」


「瑞季……本当にそれでいいのか? 話してみたらお母さんの考えが変わるかもしれないのに」


 無理させていることに気付き、距離を置くと決めたのなら瑞季のお母さんは、少し考えを変えたかもしれない。過度な期待はやめてこれからは彼女の頑張りを褒めたり、ちゃんと見てあげようと。


「話したら変わる? 私はとてもじゃないですけどそうは思いません。お母さんは、理想の娘じゃないと、頑張り続ける私じゃないと見てくれません。私は、本当の自分を見てほしいのに……」


「それだよ。それをそのままお母さんに伝えればいい。それはわがまま何かじゃない。お母さんの期待には応えられないときっぱりと言って、ありのままの自分を見てほしいってお母さんに伝えたらいいと思う」


 お母さんにそう言ってどうなるかを考えるより思うことを伝えなければ瑞季とお母さんの関係は変わらずこのままだ。


 俺も瑞季と同じように父さんから過度な期待を持たれている。だが、俺の場合、そんなこと無視して自分がやりたいようにやっている。無理しすぎて自分を失うのは怖いから。


「……私の話をちゃんと聞いてくれますかね」


「大丈夫。親だから娘の話は真剣に聞いてくれるはず」


「……碧くん、お願いがあります」


 






***







 3連休から1週間経った土曜日。俺は、瑞季とお母さんの目の前に座っていた。話し出しにくい雰囲気があり、瑞季は、ずっとうつ向いたままだ。


 久しぶりに話すらしく彼女は緊張しているのか固まっていた。


「鴻上碧さんと言ったわね。初めまして、露崎雪乃です」


「初めまして、鴻上碧です」


 自己紹介を終え、再び静まり返る。瑞季のお母さんは、瑞季と似て綺麗な人だ。


「お付き合いしてるのよね?」


 雪乃さんは、瑞季から俺と付き合っていることは明人さんから聞いたらしく知っていた。


「はい。瑞季さんとお付き合いさせてもらってます」

 

「そう……」


 それにしても久しぶりに会うはずなのに親子の会話が少なすぎる。距離を置きすぎてどう接すればいいかお互い探り合いになっているように思えた。


「私は、交際に反対しないわよ。瑞季が選んだ相手ですもの。娘をお願いします」


「はい」


 あっさりと認めてもらえたが、今日1番するべき話は交際を認めてもらうことじゃない。瑞季がお母さんとちゃんと話し合うことが大事だ。


「瑞季、話さなくていいのか? 後悔するかもしれないぞ」


「……そうですね。碧くん、側にいてほしいと言いましたが、少しの間、私の部屋で待っていてもらってもいいですか? お母さんと2人で話します」


「わかった」


 瑞季の部屋の場所はこの前行ったばかりなので覚えていた。瑞季を部屋に残し、俺は、2階へ上がった。


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