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彼女の家に訪問

 おかしい、確かに瑞季は、積極的になることあるけどこういうのはまだ早いというか……。


 カバっと起き上がると、瑞季が布団を畳んでいた。


 あれ……さっきの夢か……。


「碧くん、おはようございます。何か怖い夢でも見ましたか?」


 急に起き上がったので瑞季に心配された。あれは怖い夢というかあまり人に言えない夢の内容だ。


「ま、まぁまぁ怖い夢を……」


「怖いなら今日はずっと側にいましょうか?」


 そう言って瑞季が俺に近寄ってきたので夢が正夢になるんじゃないかと思った。


「い、いや、大丈夫だ」


「そうですか……」


 瑞季は、残念そうな顔をして背を向けて部屋を出た。


 3連休最終日の朝食は、俺が主に作り、瑞季にも少し手伝ってもらった。今日は長谷部さんも家に帰る日なのでさすがに起きていた。


「ふわぁ~、眠い眠い……瑞季ちゃんに碧くん、朝食、私の分までありがとね」


 まだ寝起きの長谷部さんは、そう言ってイスに座る。


「いえ。そう言えば長谷部さんは、3連休の間はカフェ、どうしてるんですか?」


「カフェは休みだよ。毎日営業してるから休もうってことになったの。あっ、いただきます」


 俺の質問に答えた後、手を合わせ、長谷部さんは朝食を食べ始める。


「な、なにこれ! 碧くんって料理得意なの?」


「まぁ、得意な方です」


「なら、うちでバイトしない?」


 『hitode』でバイト……できるならやってみたいが、許してくれないだろうな。こっそりやる手もあるが、見つかったときにな……。


「いえ、勉強で忙しいのでバイトは……」


「そっかそっか、残念だよ。やりたいって思ったらいつでも言ってね」


「はい……」


 俺が頷くと隣で朝食を食べる瑞季が心配するような目でこちらをじっと見つめていた。


「瑞季、どうかしたか? 何かついてる?」


 ごはん粒でも口の周りに付いているかと思い、手を口元へやるが、何も付いてなかった。


「いえ、何でもありません。新幹線の時間って11時30分でしたよね? バスの時刻表調べましたので後でメールで送っておきますね」


 何かに気付いたような表情をしていたが、彼女は何も言わず帰りの話をする。


「ありがとう」



***



「また遊びに来な。瑞季をよろしく頼むよ、鴻上くん」


 清美さんに肩をポンと優しく叩かれ、俺は、強く頷いた。


「わかりました。また来れそうなら来ます。お邪魔しました」  


 軽く頭を下げ、瑞季と長谷部さんと一緒に少し歩いたところのバス停に乗る。


 バスの中は、空いており座ることができた。ここから30分ほど乗り、その後は電車、新幹線という順に乗る。


 田舎から都会へと帰るのでバスや電車と利用するものが多い。


「長谷部さん、寝てる……瑞季も寝たかったら肩にもたれ掛かって寝てもいいからな?」


 新幹線に乗り、通路側から長谷部さん、瑞季、俺と座っていた。


「では、眠くなったらそうしますね」


 30分後、イヤホンで音楽を聞いていると瑞季が俺の肩にもたれ掛かってきた。


 2人が寝ていると自分も眠くなってきたので音楽を切り、目を閉じ、寝ることにした。


 新幹線が降りる駅に到着した後はまた電車に乗った。


「ん~、やっと着いたぁ~!」


 長谷部さんは、うんと背伸びをした。


 ずっと座っていたので少し疲れた。後は家に帰るだけだ。長谷部さんは、俺達とは真逆の方向のためここで別れる。


「じゃあ、またね、2人とも」


「はい、またお店の方にも行きますね」


「うん、待ってるよ。鴻上くんも来てね」


「はい、瑞季と一緒に行きます」


 長谷部さんと別れ、瑞季と2人きりになる。


「お泊まり、楽しかったですね。碧くんは、どうでしたか?」


「うん、楽しかったよ。またああやって一緒に星が見れたらいいな」


「そうですね」


 父さんに友達の家に泊まりに行くというのを説得するのにかなり苦労したが、母さんのおかげで瑞季と泊まりに行くことができた。


 何のために泊まりに行くのかと問われたら「勉強」のためとか適当な理由を言えば大丈夫よと母さんから言われ、そのまま言ったが、まさかそれで認められるとは思わなかった。


「そうだ、俺、瑞季のご両親に会って挨拶したいと思うんだけど……」


「挨拶……お父さんは碧くんに会ってくれるかも知れませんが、お母さんは会ってくれないと思います。もう何年もまともに話してませんから」


 悲しい彼女の表情に俺は会いたいなんて言わない方が良かったのではないかと後悔する。


「お母さんと別々に住んでるって言ってたよな。踏み込んでいいかわからないけどその理由とか聞いてもいい?」


「いいですよ。話すと長くなりますし、家に来ませんか?」


「いいのか?」


「いいですよ。お父さんは、まだ帰ってきてませんが、碧くんなら来ていいと言ってくれるはずです」


「じゃあ、行こうかな……」


「はい、では、行きましょうか」



***



「ほんとに広いよな。何このどこぞのお嬢様が住んでそうな家だ」


「そんな広くありませんよ。碧くんと家とさほど変わらないと思います」


 いやいや、俺の家と広さ全く違いますから。天井高いし、部屋広いし。


「お茶入れてきます。碧くんは、そこに座ってください」


「手伝うよ」


「碧くんは、座って待っていてください。お客様に手伝わせるわけにはいきません」


 謎の圧をかけられ、俺は、言われた通りソファに座って待つことにした。


 それにしても広い……広すぎて落ち着かない。


 そわそわして待っていると瑞季が目の前にある長方形のセンターテーブルにお茶が入ったコップを置く。


「熱いので気を付けてくださいね」


「ありがとう」

 

 彼女は、俺の隣に座り、自分の分のお茶を一口飲んでテーブルに置く。


「お母さんのことでしたよね……」


「うん、話したくないなら無理して話さなくてもいいからな?」


「いえ、碧くんには聞いてほしいです。私がいろんなことを頑張る1番の理由が母親のためであることを」


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